元陸上自衛隊陸将補で日本安全保障フォーラム会長の矢野義昭氏が、トランプ政権下の世界情勢と日本の国防について警鐘を鳴らした。ウクライナと中東の紛争が収束に向かう一方で、「その分北東アジアが危ない」と述べ、日本周辺が新たな紛争の中心となる可能性を強調した。トランプ大統領の政策を「常識革命」と評価し、グローバリズムからの転換が世界を動かしていると分析する。
トランプ政権の「常識革命」とグローバリズムからの転換
元陸上自衛隊陸将補で日本安全保障フォーラム会長の矢野義昭氏は、現在の世界情勢が大きな転換期を迎えていると指摘する。中東とウクライナの紛争は収束に向かうとの見方を示し、ウクライナ戦争については「軍事の現場から見ると明らかにロシアが勝つと。ウクライナはもう敗北している」と述べ、ロシアとアメリカの基本的な停戦合意が進んでいると分析する。
中東紛争についても、トランプ政権がイスラエルのネタニヤフ政権に対し「これ以上の戦争拡大をするなという圧力を加えています」とし、ロシアもアサド政権の倒壊を容認したことから、地域の問題に任せる方向へ進んでいると指摘する。
しかし、これらの紛争が収束する代わりに、「北東アジアが危ない」と述べ、日本周辺が新たな紛争の中心となる可能性を強調した。
矢野氏は、トランプ大統領の政策を「常識革命」と評価し、数百年来のグローバリズムの流れに革命的変化が起こっていると指摘する。グローバリズムを「一部エリートによる大衆の全体主義的な支配」と定義し批判した。
フランス革命以来の人権、自由、平等、民主主義といった価値観が、実際にはグローバリズムの流れの中で「革命と戦争の歴史」を生み出してきたと見る。大東亜戦争の本質を、グローバリズム(共産主義・社会主義も含む)と日本の「国柄を守ろうという流れ」であるナショナリズムとの衝突と捉えている。戦後の日本はGHQの洗脳工作により、憲法以下「全て日本を弱体化するための枠」が作られ、グローバリズム的価値観が押し付けられたと主張した。
矢野氏は、「本質的にグローバリズムに対して反対をするのはトランプさんもそうですし、それからプーチン大統領もそうです」と述べ、両者がグローバリズムに対抗する勢力として共通の立場にあることを示唆した。
アメリカの外交政策転換については、トランプ政権の基本的な戦略は、台湾海峡の平和安定を重視し、日本、台湾、フィリピン、ベトナム、オーストラリアといった「前線国家」の防衛力強化を促し、中国の太平洋進出を阻止することにあると分析する。直接的な軍事対決ではなく、関税、情報提供、投資といった「非軍事的な措置で中国を締めつけていく」方針であると指摘した。ロシアとの関係を改善し、中国を牽制することで、インドもこれに追随し、「全正面で中国を包囲して内部からの崩壊を待つ」戦略であると見ている。
ヨーロッパからの撤退についても言及し、アメリカがウクライナから撤退、あるいは脱退する可能性が高いと予測する。ロシアとの関係が改善されれば、欧州問題はアメリカにとって「死活的問題ではなくなる」ためだという。
アメリカの国内問題と日本の国防の課題
アメリカは、国境開放による2000万人もの不法移民の流入、フェンタニルなどの合成麻薬問題、治安の悪化といった国内問題に直面していると矢野氏は指摘する。「去年11月オレシュニクというのが撃たれたんですが、あれは極超音速ミサイルって言われて止める手段ないんですよ」と述べ、アメリカ本土が極超音速ミサイルや大陸間弾道ミサイルといった新しい兵器体系による直接的な脅威を受けていると警鐘を鳴らした。
これらの国内問題と新たな脅威により、アメリカは「米本土を守る」ことを最優先課題とし、「欧州とかあるいは北東アジアの日本などの同盟国を守る余力がないです」と述べている。
アメリカは同盟国に対し、「国防費を増やして備えてくれと」と求めているという。特に日本に対しては、「日本にもっとしっかりしてくれと」と強い期待を寄せているという。
矢野氏は、GDP1%枠に縛られていた防衛費を2027年までに2%に倍増するという安保3文書の決定や、一貫した戦略文書体系の構築は評価できると述べている。しかし、「政策的な縛りを前提に戦略を考えるってことは本来の戦略じゃない」と厳しく批判した。本来の戦略は、国益、特に生存を確保できるような合理的戦略であるべきで、政治的な枠組みを一度外して「敵性国を把握して」から戦略を立てるべきだと主張する。現在の安保3文書は「政治文書の延長」であり、「全然できてない」と指摘した。
国防上の具体的な問題点として、「2027年というけどもそれまでに脅威は顕在化しないのか」と、防衛力整備の速度に疑問を呈した。また、「シェルターの問題1つについても日本はほとんど整備されていないし、自衛隊も戦い続ける能力がないんですよ現実には」と具体的な不足を指摘する。弾薬増産に「最低10年はかかる」と述べ、生産体制の不備を強調した。
「基本的人権という思想がありますよね。あれが盾になってどうしても人優先なんです。だから日本の場合は動員ってことができないんです」と述べ、憲法と国民の国防意識の低さが、緊急時の「国民の動員」や「国防意思強化」の妨げとなっていることを指摘した。メディアや教育の問題も重要視しているという。
さらに、「合理的な戦略がない」と、戦略立案における合理性の欠如を批判した。「外交を優先していて、防衛と外交のバランスが取れていない」と、総合戦略の欠如も指摘した。
矢野義昭氏の見解からは、世界がグローバリズムからナショナリズムへと回帰する大きな転換期にあり、アメリカの政策が本土防衛に重点を置くことで、日本を含む同盟国に自立した国防努力を強く求めるようになっていることがわかる。特に北東アジアが新たな地政学的緊張の中心となる可能性が高い中で、日本の現在の国防政策は「戦後日本を縛ってきた政策的な縛り」から脱却できておらず、戦略、国民意識、実質的な防衛能力において多くの課題を抱えていると警鐘を鳴らしている。日本の真の国防には、既存の枠組みにとらわれず、国益を最優先した合理的かつ総合的な戦略の構築、国民の国防意識の醸成、そしてそれらを支える実質的な能力の整備が不可欠だというメッセージが強く伝わってくる。はたして、日本は迫りくる脅威に対し、真に自立した国防体制を築けるのだろうか。
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