揺れるアメリカの「聖域都市」:凶悪犯罪と財政負担を巡る民主党・共和党の激しい攻防

国際政治

アメリカで深刻化する不法移民問題を巡り、州の「聖域政策」の是非が問われる公聴会が開催された。共和党議員は、民主党が主導するこの政策が、国民の安全を脅かす凶悪犯罪の温床となっていると強く批判。これに対し、民主党知事らは人道的観点からの対応の必要性を主張し、議論は平行線をたどった。

共和党の主張:聖域政策が招く凶悪犯罪

ミネソタ州、ニューヨーク州、イリノイ州の民主党知事が証言した公聴会は、州の「聖域政策」の是非を巡り、激しい議論が交わされた。共和党側は、この政策が「犯罪を犯した不法移民」を野放しにし、公共の安全を脅かしていると厳しく非難。一方、民主党知事らは、人道的対応の必要性を訴え、問題の根源は連邦政府の不備と「トランプ政権の無謀な移民政策」にあると反論した。

公聴会では、共和党議員からニューヨーク州のキャシー・ホークル知事に対し、聖域政策が原因とされる複数の凶悪犯罪の事例が突きつけられた。レイケン・ライリー殺害事件では、ホークル知事が「反逆的な知事」であり、「聖域法」を支持したために彼女が殺された責任があると厳しく非難された。容疑者のホセ・イバラは、国境で逮捕された後に釈放され、ニューヨーク州でも逮捕されたものの、聖域政策のためにICEの拘束命令前に釈放されたとされている。

共和党側は、ニューヨーク州が不法移民のために年間約40億ドルを費やしていると指摘。ペンステーションの改修に連邦政府に同額を要求していることについても批判した。イリノイ州のプリツカー知事も、不法移民に費やされる州の費用を追跡していないと非難された。

また、バイデン政権の移民プロトコルの大規模な拡大が、各州と市に過度な負担をかけているとし、民主党知事らは国境警備の失敗に責任があると主張した。ホークル知事に対しては、不法移民への運転免許証付与や税金で賄われる医療支援の支持、そしてICEに個人的に連絡して不法移民を国外追放したことがあるかについて質問が投げかけられた。

民主党の反論:人道的な対応と連邦政府の責任

一方、民主党知事および議員は、共和党の主張に強く反論した。イリノイ州のプリツカー知事は、州が「破綻した移民制度」の負担を負っていると述べ、子どもや家族が飢えたり凍えたりしないよう支援することで、人道危機に対応したことを強調した。

ミネソタ州のウォルツ知事は、州は「聖域州ではない」と明確にし、州と地方政府の役割は移民法の執行ではないと主張。国境警備と政策は連邦政府の責任であると強調した。また、全ての国民が「デュープロセス(適正手続き)」を受ける権利があるとし、憲法上の基本的な権利を行使しただけで拘束されるべきではないと訴えた。

ニューヨーク州のホークル知事は、ニューヨーク州の政策は連邦移民当局に情報を開示しないというものであり、刑事事件についてはICEに全面的に協力していると強調。レイケン・ライリー殺害事件は刑事事件であり、州の「市民執行」政策とは関係がないと述べた。

トランプ政権への批判と歴史的警鐘

民主党側は、問題の根本はトランプ政権にあると主張。ウォルツ知事は、トランプ大統領がICE捜査官を「現代のゲシュタポ(秘密国家警察)」として利用していると発言した。複数の民主党議員は、トランプ政権の政策が「無謀で危険」であり、公共の安全を危険にさらしていると主張。トランプ政権は暴力犯罪者ではなく、働く人々やルールに従おうとする人々を無差別に逮捕・拘束するよう法執行機関に命令しており、これは「アメリカ人の権利を侵害」していると批判した。

また、共和党が掲げる「外国の侵略者をICEに通報せよ」といったスローガンを、75年前のナチス・ドイツにおける「ユダヤ人を報告せよ」や、奴隷制時代の「逃亡奴隷を通報せよ」といった歴史的なヘイトスピーチと類似していると警鐘を鳴らした。

この公聴会自体も「時間と納税者の無駄」であると批判され、共和党が「ドナルド・J・トランプ」という人物を支持し、国民への配慮を欠き、権力の乱用や「恐怖」を煽っていると非難された。

公聴会は、聖域政策の是非を巡る議論にとどまらず、移民問題の根源、人道的対応のあり方、そしてアメリカの民主主義の根本的な価値観を揺るがす激しい論争となった。はたして、共和党と民主党は、この国の未来を左右する移民問題の解決に向けて、建設的な対話を行うことができるだろうか――。

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