経済アナリストのジョセフ・クラフト氏が、日米関税交渉の現状と、それが来る参議院選挙に与える影響について解説する。クラフト氏は、現在の米国の強硬姿勢の背景にはトランプ大統領の自信があるとし、交渉の難しさの要因は日本側ではなく米国側にあると指摘。さらに、参議院選挙が「大連立を決める選挙」になる可能性を提起し、若年層の投票率がその行方を大きく左右すると語る。
日米関税交渉の現状とトランプ政権の思惑
日米関税交渉は、日本が劣勢に立たされているように見えるが、「あれで決まりという風に思わない方がいい」とクラフト氏は語る。トランプ大統領が強気な姿勢を見せる背景には、イラン攻撃の成功、NATOへの防衛費要請の受け入れ、減税法案の成立、そして米国内のインフレ圧力の低さがあるとクラフト氏は分析する。
特に、カナダが米国に譲歩し、ベトナムが米国の輸出製品に20%の関税を課す一方、ベトナムへの輸入製品は0%とする合意が成立したことは、「日本にとっては相当ハードルが上げられてしまった」要因だという。
一方で、米国株式市場が最高値を更新している現状については、「一体何を考えてるのか」と疑問を呈す。4月の関税賦課の際には株価が暴落したにもかかわらず、現在同条件で株価が上昇しているのは「全く僕には理解できない」と述べる。
交渉の核心は「米-米-日交渉」にあり
クラフト氏は、日米関税交渉の遅れは日本側の問題ではないと指摘する。交渉の本質は米国側、特にトランプ大統領とベッセンと財務長官、ラトニック長官、グリア通商代表といった閣僚間の調整が鍵だという。
日本側は当初から複数の交渉カードを用意していたものの、米国側が具体的な要望を示さなかったため交渉が進まなかったと語る。さらに、米国側の閣僚が「それぞれバラバラに動いていて」、ある閣僚と合意しても、別の閣僚が「それはダメだ」と横槍を入れる状況だという。「閣僚間で求めるものが違うんで日本はその狭にあって振り回されてる」ことが最大の問題だとクラフト氏は強調する。
加えて、閣僚たちがトランプ大統領に対して「自分たちがよく見られるように動いてる」ため、日本との交渉を締結することよりも、自分たちが大統領にどう見られるかを優先しているという。結果として、「トランプに正しい情報が伝わっていないのでトランプが好き勝手に自分で決めちゃってるわけですね」。
この状況を打開するには、「もう首脳間同士である程度話し合わなきゃいけない段階に来た」とクラフト氏は提案する。閣僚レベルの交渉では情報がトランプ大統領に上がらないため、首相が直接トランプ大統領に訴えかけ、「今の情勢はなかなか変えにくい」との見方を示す。
関税発動後の見通しと日本の戦略
8月1日に25%の関税が発動される可能性はあるものの、クラフト氏は「中間選挙までにトランプは最終的に発動した関税を下げてくると思います」と予測する。その理由として、秋口から年末にかけて関税によるインフレ圧力が顕在化し、トランプ大統領の支持層、特に低所得者層からの不満が高まることを挙げる。
そのため、日本企業は8月1日の関税発動を「これ未来永遠なんだという風に」捉えるべきではなく、「向こう1年間で関税が軽減される可能性がある」と捉え、コスト効率化や他国での収益増を目指すべきだと助言する。
日本にとっての「合格ライン」は、最悪の25%ではなく、15%から20%の間だとし、「15はある程度合格、20だとちょっと微妙」との見方を示す。日本の最大の武器は「民間投資」、特に米国への直接投資だとクラフト氏は指摘し、すでに石総理が2月にトランプ大統領と会談した際に、今後4年間で2000億ドルを米国に投資する意向を伝えたことを例に挙げる。また、日本が大量に保有する米国債の再投資や、農産品、防衛装備品、エネルギーの購入も交渉材料になると語る。
トランプ大統領は「俺がやったんだ」とアピールしたがるため、直接交渉で「花を持たせる」形で提案をすることが効果的だとクラフト氏は強調する。
参議院選挙の行方と「排外主義」の台頭
クラフト氏は、今回の参議院選挙を「政権選択選挙」ではなく、「大連立を決める選挙」と位置づける。自民・公明両党が過半数を維持できるか微妙な状況だが、仮に過半数を割ったとしても、石総理は「少なくともと年内は」続投するだろうと予測する。選挙後は、「自公が連立を組むのか」が最大の政治テーマになると見ている。
今回の選挙の特徴として、「排外主義」の台頭を挙げる。米国や欧州で不法移民が社会問題となっているのに対し、日本では不法滞在者が9万人程度と少なく、その多くが観光ビザの期限切れであることを指摘する。外国人にまつわる政策の不備を是正することは必要だが、「国民の不満を外国人に向ける意図があるとすれば」それは「排外主義的なものになるのでそこはちょっと要注意」と警鐘を鳴らす。
一部のSNSやYouTubeで外国人を排斥する言動が拡散され、一部の政党がそれを選挙公約に掲げていることについて、「ポピュリズムに乗ろうという動きが最近見られるようになった」と現状を憂慮する。
経済アナリストのジョセフ・クラフト氏が指摘するように、日米関税交渉は米国側の内部要因が複雑に絡み合い、その行方は予断を許さない。また、参議院選挙は単なる政権選択に留まらず、今後の連立政権のあり方を左右する重要な局面を迎えている。そして、若年層の投票行動と、一部に台頭しつつある「排外主義」の動向が、選挙結果に大きな影響を与えるかもしれない。
経済アナリスト・ジョセフ・クラフトが斬る「日米関税交渉と参院選の行方」
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