国際政治アナリストの伊藤貫氏が、ウクライナ戦争はアメリカがロシアを戦争に追い込んだ結果であると主張。その論拠として、NATOの東方不拡大の約束違反、ウクライナへの政治的・軍事的干渉、そしてロシアの安全保障上の「レッドライン」無視を挙げている。さらに、このウクライナ戦争の構図が、第二次世界大戦における日米戦争において日本がアメリカによって戦争に追い込まれた状況と酷似していると指摘し、特定の政治家や官僚、あるいはロビーの意図が戦争を誘発した可能性を示唆した。伊藤氏は「今回のウクライナ戦争はアメリカがロシアを戦争に追い込んだっていうことを短く説明する」と切り出している。
NATO東方不拡大の約束と破られた信頼
伊藤氏は、ウクライナ戦争の遠因として、1990年にジム・ベーカー米国務長官がロシアのゴルバチョフに対し、「will not expand NATO to the east(NATOを東側に1インチたりとも拡張することはない)」と明言したことを挙げている。この約束は「アメリカだけじゃなくてフランスとイギリスとドイツの首相も約束した」ものであり、「全部で10数回ゴルバチェフに対してNATOを拡大してソ連を、じゃあが、ロシアを追い詰めるようなことはしないと言って」交わされたという。
しかし、クリントン政権以降、「ブッシュの息子政権も拡大してってあのどんどんどんどん米軍を東に追い詰めてった」結果、約束は反故にされたと伊藤氏は指摘する。特に2008年には、ブッシュ(息子)がウクライナとグルジアをNATO同盟国にしようと画策し、これがロシアにとって「致命的だ」と強調した。ロシアが「5分か6分であのペテルブルグもモスクワもアメリカの核兵器によって消滅させられてしまうという立場に置かれる」ためだ。
当時の駐露米国大使ウィリアム・バーンズ(現CIA長官)は、「this is the brightest red line(最も明るい赤信号だ)」(最も明るい赤信号だ)と警告する報告書を送ったにもかかわらず、当時の国務長官コンドリーザ・ライスが「握りつぶした」と伊藤氏は批判。さらに、メルケル独首相も「that would be virtual declaration of war(それはほとんど宣戦布告だ)」と警告していたが、その声も届かなかったと語る。
米国によるウクライナ内政干渉の連鎖
伊藤氏は、米国によるウクライナへの政治的・軍事的干渉が、ロシアを戦争へと追い詰めていった過程を次のように説明する。2004年の「オレンジ革命」では、「アメリカはユスチェンコ側にあの、ていうのはヤヌコビッチっていうのはロシアと仲がいいんですよ。だからロシアと対立する候補に大量の政治資金を出して、キッシンジャーとかジョン・マケインとかああいう人たちがどんどんどんどんウクライナに入ってってそれであのユスチェンコ側に勝利させた」と述べ、これによりプーチンが「してやられた」と感じたという。
さらに、2014年の「マイダン革命」では、オバマ政権下で「ビクトリア・ヌーランド国務次官補を派遣して、ウクライナキエフでクーデターをやらせやらせて親ロ派だったヤヌコビッチを追い出して、彼らの言いなりになる人間を首相にしてウクライナをアメリカの属国にした」と断言。このクーデターの時点で、「ウクライナとロシアは戦争せざるを得ない立場に追い込まれた」との見方を示した。
そして、2014年から2021年にかけて「アメリカとイギリスは毎年1万数千人のウクライナを時にはイギリスとかアメリカに呼んで軍事強連して」ウクライナ軍を強化。「ウクライナに対してアメリカの武器とアメリカ的な軍事システムを使えるようにして、いつでもウクライナ軍をロシアと戦争できる軍隊に変えていった」と述べ、ウクライナ東部・南東部のロシア系住民に対し「バンバンバンバンミサイルとドローンを打ち込んで、確か1万6000人ロシア系の住民を殺した」と語り、これらの行為がロシアを戦争へと駆り立てた要因であると指摘した。
日米戦争の教訓:特定の人物が引き起こした悲劇
伊藤氏は、今回のウクライナ戦争の構図が第二次世界大戦における日米戦争と酷似していると強調する。ハーバード大学のジョン・ミアシャイマー教授の見解として、ウクライナ戦争が「日本を1941年にじりじりじりじりとアメリカとの戦争をやらないわけにはいかないと、もう対米開戦する以外にオプションはないと、アメリカ相手に戦争するしかないというところに」追い詰めた状況と同じであると述べている。
特に、日本を戦争に追い詰めたとされる「ハル・ノート」について、「モーゲンソー財務次官とデキスターホワイト財務次官、当時財務省を支配しコントロールしてる連中」によって作成されたと指摘。彼らが「ユダヤ人なんです」と付け加え、「一刻も早く米軍をあの第二次大戦にヨーロッパに派遣したいとアメリカを戦争に巻き込みたいと」考え、そのために「日本を戦争せざをえないようなところに追い詰めていくのが一番いいやり方だと」判断したと主張した。
さらに、フランクリン・ルーズベルト大統領が幼少期から母親に「日本人ぐらい悪いやつはいないと」教え込まれており、「日本を叩きつぶしてやりたいと」いう強い意志を持っていたと述べた。伊藤氏は、「フランクリン・ルーズベルトとモーゲンソー財務次官とハリー・デクスター・ホワイトと、この3人がいなかったら戦争になってない」と結論付け、歴史の悲劇が特定の人物の意図によって引き起こされる可能性を示唆した。
「数人の変なやつ」が歴史を動かす不気味さ
イラク戦争での大量破壊兵器に関する誤情報とネオコンの「大失敗」が共和党内でネオコンの立場を弱めたものの、彼らは後に民主党へと回帰し、バイデン政権下で「ウクライナを利用してウクライナ軍に」ロシアとの戦争を起こさせたと伊藤氏は語る。
伊藤氏は、歴史が「すごく怖くて、数人の変な奴がいて、変なことやり出すと大戦争になって」しまうと警鐘を鳴らす。そして、日本の場合は「戦争に負けた後80年経ってもまだ独立できない」という状況が続いていると嘆く。歴史の教訓は、はたして活かされることはないのだろうか――。
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