トランプ政権の貿易交渉は、単なる関税の引き下げや引き上げにとどまらない、より深遠な戦略を秘めている。ジャーナリストの及川幸久氏は、この交渉が従来の「関税交渉」の枠を超え、大規模な「投資交渉」へと変貌している現状を明らかにした。及川氏は、トランプ政権の貿易交渉はもはや従来の「関税交渉」ではなく、大規模な「投資交渉」に変化していると指摘した。EUとの「屈辱的な合意」や、日本の5500億ドル「全額拠出」による日米投資基金の設立は、米国への「莫大な投資」を引き出すための「とんでもない戦略」だと解説した。
EUの「屈辱的合意」:ウクライナ戦争が引き出した「完璧な勝利」
及川氏によると、EUはトランプ政権との関税交渉で「屈服」し、その内容は「屈辱的」であり、トランプ政権にとっては「完璧な勝利」であったという。具体的には、米国側関税が30%から10-15%に引き下げられる一方で、EU側には「米国のエネルギー(液化天然ガス、石油)を7500億ドル購入」する義務が課された。これにより、これまでロシアの安価なガスに依存していたドイツなどの競争力が失われる可能性があると指摘された。加えて、EUは「米国に6000億ドル投資」するという。これは日本の対米投資額(5500億ドル)を上回る額で、EU側は民間資金によるものと主張しているものの、実現可能性は不透明だ。
EUがこれほどの要求を受け入れ「屈服した理由」は、「ウクライナ戦争における米国の支援継続が必要なため」だと及川氏は分析する。ロシアの勝利を最も困るのがEUのグローバリストたちであり、自国のみでは支援を続けられないため、トランプ政権の要求を「全て受け入れざるを得なかった」という。
この合意に対し、EU内部からは反発の声が上がっている。フランスのマリーヌ・ルペンは反対を表明し、マクロン大統領傘下の中道勢力のフランソワ・バイル首相も合意を批判し、フランスは批准に反対する意向を示している。ドイツのメルツは「ヨーロッパにとって暗い日となった」と表現しつつも、最終的にはこの結論に同意せざるを得ないだろうと述べている。及川氏は、今回の合意がEUの「行き詰まり」をよく表しており、外交政策の変更(ロシアとの戦争ではなく話し合いと貿易)が必要だと指摘した。
日本は「ひな型」に:5500億ドル投資の波紋
先週合意した日本とトランプ政権の条件が、EUなど他国との交渉の「ひな型(テンプレート)」になったと及川氏は語る。その核心は「日米投資基金の設立」だ。日本が「5500億ドル(約80兆円)を全額拠出」し、米国に投資するという。この投資対象には、医薬品工場、アラスカのガスパイプライン(500億ドル)、台湾TSMCの米国工場建設資金などが含まれる。驚くべきは利益配分で、当初は50%ずつであったものが、「トランプ大統領の指示により米国90%:日本10%に変更された」という。
しかし、この投資の内訳を巡っては混乱が生じている。日本側(赤澤大臣)は、この5500億ドルのうち「実際の出資は1-2%に過ぎず、残りの98-99%は融資(ローン)や融資保証である」と説明した。この説明が米国に伝わり、「トランプが嘘をついた」と米メディアやネット上で議論になっている状況だという。及川氏は、日米合意は合意後に話が混乱していると述べた。
トランプの「とんでもない戦略」:関税は「見せ玉」に過ぎない
及川氏は、この一連の交渉はもはや従来の関税交渉ではなく、「投資交渉」であると明確に位置づける。その戦略の立案者は、トランプ氏の長年の側近であるハワード・ラトニック商務長官だという。ラトニック長官は、高い関税だけでは各国との貿易赤字は縮小しないと判断し、「貿易赤字を埋め合わせるための『投資』」を考案した。
すなわち、「トランプ関税」は「見せ玉(店玉)」であり、「本当にトランプ政権が取りたかったのは米国への大規模な投資」だったと解説された。このトランプ政権の「とんでもない戦略」により、日本もEUも、そして今後現れる他の国々も、「大規模な投資を行うことを強いられる国際情勢」になっていると及川氏は結論づけた。
トランプ政権が仕掛ける「関税交渉」の裏に隠された「莫大な投資」要求。それは、世界経済の潮流を大きく変え、各国に新たな戦略を迫るものだ。はたして、日本やEUは、この「とんでもない戦略」に対して、どのように対応していくのだろうか――。米国の国益を最優先するトランプ流交渉術が、今後どのような影響を世界に与えていくのか、注視されるだろう。
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