ロシアは今、国家の存立を揺るがす深刻な内部危機に直面している。ウクライナ戦争が引き起こした警察機能の麻痺と治安の悪化、そしてそれに伴う武装自警団の台頭は、ロシア政府の統治能力を著しく損ねている。この危機的な状況を、政治分析チャンネル「The Icarus Project」が鋭く分析する。
警察官が「17万人」も欠員する異常事態
The Icarus Projectは、ロシア全土で警察官の約4分の1にあたる約17万人もの欠員が発生していることを指摘し、これは「ロシア政府の小規模な崩壊」だと表現する。この大規模な欠員は、主にウクライナ戦争が原因だ。
警察官志望者は「軍隊に入隊する動機を持つ人々と同じタイプである」ため、より高給な軍隊に引き抜かれてしまう。さらに、危険性が増し、労働時間が長くなったことで、タクシー運転手など「基本的な仕事」に転職する警察官も増えている。
この影響は特に地方で深刻だ。農村部では欠員率が25%どころか「75%に達している場所もある」。残った警察官は16時間シフトで働き、重度の犯罪にしか対応できない状況に陥っている。
犯罪の連鎖と自警団の台頭
警察力の低下は、犯罪が犯罪を呼ぶ「自己増殖的な問題」を生み出している。「犯罪者が罰せられない地域では、犯罪者は犯罪の味を知るようになる」とThe Icarus Projectは警告する。犯罪が蔓延すれば、より良い生活を求める市民は地域を離れ、治安はさらに悪化する。
さらに、ウクライナから帰還した多くのロシア兵が「犯罪分子」となりやすいことも問題だ。特に刑務所から釈放された元受刑兵士が社会に戻ることで、犯罪のさらなる増加が懸念されている。
警察機能の空白を埋める形で、各地で武装した「自警団」が台頭していることも明らかになった。これらのグループは、政府の「完全な統制も影響も受けていない」といい、南米や中米で見られるように、政府が統制を失った地域で法を執行する事態につながる可能性がある。The Icarus Projectは、自警団が「組織犯罪グループに堕落する」危険性も指摘している。
国家の失敗と政権崩壊のリスク
The Icarus Projectは、ロシアが国民を守るという最も基本的な機能を放棄し、国民の税金を戦争に費やしている現状を厳しく批判する。「ロシアは国家として失敗しているだけでなく、最も基本的な機能においても既に失敗している」と指摘する。
政府が国民を保護できなくなれば、国民は政府に対する「統治する権利」を失わせ、最終的に自警団のようなグループを結集させ、政権を打倒する可能性が高まる。ウクライナ戦争に注力すればするほど国内問題は「制御不能に陥りつつある」という。
プリゴジンのクーデター未遂は、この危険性を浮き彫りにした。戦争が長引き、国民の政府に対する信頼が失われる中で、同様の試みが「再発する可能性が高まるだけでなく、実際に成功する可能性も高まる」とThe Icarus Projectは警告する。
警察の欠員数は、政府が隠蔽しやすい犯罪率よりも、「ロシア政府がどの程度うまくいっているか、潜在的な崩壊事象にどのくらい近づいているか」を測る新たな指標になりうると締めくくった。
ウクライナ戦争に固執するプーチン政権は、国家の最も基本的な機能を犠牲にし、自らの足元を揺るがしている。はたして、この連鎖的な崩壊はどこまで続くのだろうか――
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