与党過半数割れ、新興政党躍進という波乱の参院選を終え、チームみらい党首として初当選を果たした安野貴博氏が、自身の目指す政治のあり方、そしてテクノロジーが日本の未来に与える影響について、ABCテレビ「正義のミカタチャンネル」で語った。
結党75日の快進撃と「国政政党100日プラン」
「誕生して75日くらいですかね多分。これでちゃん政党要件満たした」と、驚異的なスピードでの国政政党としてのスタートを振り返る安野氏。初当選を果たし、一議席ながらもその存在感は増している。
国政政党成立後100日プランとして掲げている具体的な取り組みについて、安野氏は「政党交付金という政党を支援するための予算を使って永田町にソフトウェアエンジニアチームを作ろうと」と語った。このチームの役割は、国民の役に立つ「政治と金の見える化システム、あるいは有権者の声を可視化システム」を開発し、提供することだと説明する。
政治資金の透明化に関しては、現状の政治資金収支報告書ではすぐに見られなかったり、1万円以下の開示義務がなかったりする課題があることを指摘。「民間企業がやってるような形でツールを使ってオープンにしていくことができる」ため、政治不信が叫ばれる今こそ「どんどんオープンにしちゃった方がいいんじゃないか」と、積極的な情報公開の必要性を訴えた。実際、安野氏が開発した「ポリマネ」というプロトタイプは「自民党の都議の方とか、もうすでに使っていただいてて実績ある」と、他党の議員も利用していることを明かした。
多様性を受け入れる永田町と「喋れるマニフェスト」
初当選後、参議院の先輩議員たちとの交流も始まったという安野氏。特に、収録現場で隣り合わせた高橋洋一氏や泉健太氏、神谷宗幣氏らとは「収録の前後でも色々お話しさせていただいてて」と語り、永田町での新たな人間関係を築き始めているようだ。先輩議員からは「自分の部屋は3階だから遊びに来てね」といったアドバイスをもらい、新しい学校に転校してきたような気分だと笑う。政策立案など、聞きたいこともたくさんあると意欲を見せた。
チームみらいの画期的な取り組みとして注目されるのが「喋れるマニフェスト」だ。これは選挙期間中にも活用されたシステムで、Web上で公開されたマニフェストに対し、有権者がチャット形式で質問や意見を投げかけることができるものだ。「AIが聞いてくれる」ことで議論が深まり、最終的には「代わりに(提案を)書いてくれる」と説明する。選挙期間中には「9000件くらい選挙期間中にマニフェストの変更提案をいただいててですね。選挙期間中に300回バージョンアップしました」と、驚くべきスピードでマニフェストが進化していったことを明かした。
このシステムに意見を寄せた支持層について問われると、「30代の方がちょっと多い」としながらも、「全年代割と分布してて、比較的30代は多めみたいな感じ」だと述べ、幅広い層からの関心を集めていることが示唆された。
若者の政治参加と「着火剤」としての役割
安野氏は現在34歳。自身の当選まで「参議院で平成生まれの議員って1人もいなかった」と語り、国会の年代的な偏りを指摘する。他の若い世代の議員が政党内のしがらみで自由に発言しにくい現状に対し、自身は無所属として当選したため「30代の私たちの目線から色々発信もしていくことができる」と、自身の立場を活かしていくことに意欲を見せた。
「なぜしがらみだらけの世界に踏み込んだのか」という問いに対し、安野氏は「我々みたいなしがらみがない人が入ることの効果ってすごいある」と強調した。これはスタートアップ業界と同じで、既存業界にしがらみがある中でも、新たなベンチャー企業が参入することで「他の既存の人たちも刺激を受けて新しいことどんどんやり始めたりする」というのだ。安野氏は、自身とチームみらいが「着火剤としての役割って実は少ない議席数でも果たせるんじゃないか」と語り、日本の政治に新たな風を吹き込むことに使命感を持っている。
イノベーションとリスク:小さく試す「精神」
政治に新たな技術を導入する際のリスクについて問われると、安野氏は、事業で自分たちが損するのと国全体が損するのとでは全く違うと認識を示した上で、「小さく試すこの精神が大事だ」と語った。いきなり全国規模で導入するのではなく、「この街だけで導入してみようとか、例えばこの省庁のこの部門だけで導入してみようとか、そういった形でまず小さく試していって」うまくいけば広げていくというアプローチが重要だとした。
一方で、「失敗しないってことを目指しちゃうと何もできなくなってしまう」ため、「一定の失敗はする。しかしその失敗は小さくできるようにする」ことが大事だと述べ、イノベーションにはリスクが伴うことを認識しつつ、それを最小限に抑えるための戦略を考えていることがうかがえる。
ネット選挙のリスクとメディアの役割
近年、SNSの影響力が強まり、「瞬間風速」的な言葉が飛び交うことで、本当に民意が反映されているのかというリスクがあることについて、安野氏は「リスクあると思います」と認めた。特に「エコーチェンバーとフィルターバブル」と呼ばれる現象によって、自身のタイムラインと他人のタイムラインが全く異なる状況が生まれることを懸念する。自身も選挙期間中、SNSのタイムラインが「もう政権与党になるんじゃないかくらいの勢いでみんなチーム未来の話しかしてないみたいな」状態だったと明かし、「自分たちと全然意見が違う他の世界があるってことが見えなくなる」のは怖い面があると警鐘を鳴らした。
こうした状況において、テレビなどのオールドメディアができることとして、「公平に扱うのもそうだと思いますし、まさにテレビとかって自分が取ろうとしなくてもその情報を流してくれるっていう、能動的じゃなくて受動的なメディアなのでその良さっていうのはある」と述べ、多角的な情報に触れる機会を提供することの重要性を指摘した。
解散のない6年間と未来への貢献
安野氏は、参議院議員の任期が6年間と長いことについて、「解散がないので6年間腰を据えていろんなことに取り組める」と前向きに捉えている。今後、自身の専門性を活かし、「長田町のエンジニアチームで今までになかった政治の業界にイノベーションを起こしていく」こと、そして「AIの専門家だった人っていうのがあんまりいらっしゃらない」ため、自身の「ユニークなアイディアみたいなものは議論の中で貢献できる」と語り、その両輪を回していくことに意欲を見せた。
デジタル大臣への意欲については、「まだ来てない」としながらも、「来たら考えたいですね」と述べ、条件次第では前向きに検討する姿勢を示した。
チームみらい党首の安野貴博氏が描くのは、テクノロジーの力を最大限に活用し、政治の透明化、効率化、そして国民参加型の民主主義を実現する未来だ。一議席からのスタートではあるものの、その発言からは、既存の政治の枠組みを変革しようとする強い意志と、未来を見据えた明確なビジョンが感じられる。
はたして、安野氏の提言する「小さく試す」イノベーションと、AIの専門知識を活かした政策立案は、日本の政治にどのような変革をもたらすだろうか――。多党化が進む日本の政治において、チームみらいが「着火剤」となり、新たな政治のあり方を提示できるのか。その動向に注目したいものだ。
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