ジャーナリストの及川幸久氏が、参政党が掲げる「反グローバリズム」の思想的背景と具体的な内容を解説する。グローバリズムを「経済的利益を追求するグローバルエリートによる国家主権の侵害」と定義し、郵政民営化や食品添加物の問題、EUの移民政策などをその具体的な事例として挙げながら、従来の左右の対立軸を超えた「グローバリズム対反グローバリズム」という新たな政治潮流における参政党の位置づけを明らかにする。
グローバリズムの正体:経済的利益を追求する者たち
及川幸久氏は、参政党の視点から見た「グローバリズム」を、経済的利益を追求するために、個々の国家の権力が及ばない統一された市場や国際機関のようなものを求める人々(グローバルエリート/グローバリスト)の活動だと定義する。この定義において最も重要な点は、彼らの目的が「経済的利益を最大化する」ことにあるという点だ。そのために、彼らにとって国家権力(税金や規制)は邪魔な存在となる。
グローバリストの主要なプレイヤーとして、及川氏は以下の存在を挙げる。国際金融資本家は「貿易・金融業で財をなし、ロンドンのシティやニューヨークのウォール街の金融市場を動かし、グローバル市場に投資を行い、資本の力で政界・学会・メディア界に大きな影響力を持つ人々」と定義され、彼らは政治家を「操り人形」として利用し、自らの経済的利益を追求する。また、大手食品会社・製薬会社も、経済的利益の最大化のためならば、食品添加物や医薬品の安全性に問題があっても、政府の認可を得て使用を継続すると指摘する。
日本を蝕むグローバリズムの事例:郵政民営化と食品添加物
講演では、グローバリズムが日本に与えた影響として、2つの具体的な事例が挙げられている。
まず、2007年の郵政民営化だ。グローバリストの目的は、世界最大の資産を持つ日本の郵貯・簡保(約350兆円)の資金をアメリカの金融業界に投資させ、その利益を最大化することだったと及川氏は語る。その経緯として、アメリカ生命保険協会会長フランク・キーティングが、日本の簡保が「競争を歪め、市場機能に打撃を与え、民間企業から仕事を奪っている」と主張し、郵政民営化を繰り返し要求したことに触れる。当時のアメリカ大統領ジョージ・W・ブッシュと小泉純一郎総理の関係性が深く、このラインを通じて郵政民営化が決定されたと指摘する。郵政民営化担当大臣であった竹中平蔵氏が、国会審議中にアメリカ金融業界の代表と十数回会合を開いていたことが明かされ、民営化後の日本郵政の資金をアメリカに投資するよう提言していたという。
結果として、民営化により「税金の無駄遣いがなくなる」と説明されたが、郵貯は元々税金を使っておらず、20年近く経った現在、郵便局のネットワーク維持のために「国が支援すべき」という改正案が出るなど、実質的に失敗が露呈していると指摘する。及川氏はこれを「本末転倒」であり、グローバリズムの仕組みによって日本が利用された象徴的な事件だと結論づけている。
次に、食品添加物、特に赤色3号の問題が挙げられる。食品着色料である赤色3号は、アメリカでは発がん性の危険性が指摘され、ロバート・ケネディ・ジュニアによって使用禁止に追い込まれたにもかかわらず、日本では「指定添加物」として現在も広く使用されているという。参政党の神谷宗幣代表が参議院で、食品添加物の安全性評価と使用規制に関する質問書を提出したが、政府は「問題ない」と回答したことに触れ、及川氏はこれは「グローバリズムが、経済的利益を最大化するためだったら何でもあり」という姿勢を示していると批判する。
国家を弱体化させるグローバリズム:EUの事例から
グローバリズムの組織的象徴としてEU(欧州連合)が挙げられる。EUが人道的観点から難民受け入れを決定すると、加盟国は国家主権を越えてそれに従わざるを得ない仕組みになっていると説明する。2015年の欧州難民危機後、安い労働力確保によるグローバル企業の利益増大の裏で、犯罪率(特にレイプ率)の増加など、社会問題が発生していると指摘する。
及川氏は、「グローバリズムは国家を弱体化させる」とし、その国の「歴史、文化、伝統、強み」を壊していくと主張する。これは、経済的利益追求の邪魔になるからであると分析している。
反グローバリズムの台頭と参政党の挑戦
EU諸国では、イギリスのナイジェル・ファラージ(改革UK)、フランスのマリーヌ・ルペン(国民連合)、ドイツのアリス・ワイデル(ドイツのための選択肢)など、反グローバリズムを掲げる政党が台頭していると紹介する。これらの動きの先駆けとなったのがアメリカのトランプ大統領であると強調し、「トランプさんは共和党だが共和党ではない」「これまでの政治の対立軸は保守とリベラル、右と左だったが、グローバリズムという観点から見ると、共和党も民主党もグローバリズムであり、それに対して反グローバリズムがトランプさんのポジション」と述べる。グローバリストたちは、反グローバリストに対し、「デマと偽情報で叩く」という法則があると指摘した。
参政党は、この「反グローバリズム」の新しい政治トレンドに位置づけられると主張する。参政党が提示した新日本国憲法草案は、「日本は、天皇のしらす君民一体の国家である」を謳っており、これは「天皇主権」ではなく、国家主権をグローバリストではなく日本に明確に置く「反グローバリズム、日本人ファーストの憲法草案」であると説明する。従来の「右か左か」という政治の軸を超え、グローバリズムと反グローバリズムという新しい対立軸において、参政党は「全く新しい政治のトレンド」を推進する側にいると結論づけている。
及川幸久氏の講演は、参政党が掲げる「反グローバリズム」の思想的背景と具体的な内容を明確に解説するものだ。グローバリズムが国家主権を侵害し、国民生活に悪影響を及ぼしているという問題提起は、果たして多くの日本人に響くのだろうか――。参政党が目指す「日本人ファースト」の国家は、既存の政治勢力に一石を投じることになるかもしれない。
コメント