政治ジャーナリストの鮫島浩氏が、今回の参議院選挙結果を徹底分析する。自民党の歴史的惨敗の背景にある保守王国での敗北と無党派層の離反、そして「裸の王様」と化した石破首相の続投表明の波紋を解説。さらに、野党の明暗、特に躍進した参政党と国民民主党の戦略、そして今後の政界再編の可能性について、詳細な見解を語る。
自民党、歴史的惨敗の裏側:「無党派層から完全にそっぽを向かれた」
今回の参議院選挙は、与党(自民党・公明党)にとって歴史的な惨敗となった。自民党は改選議席から13議席減の39議席にとどまり、石総理が掲げた「与党で過半数」を下回った。鮫島氏は、比例も過去最低の12議席で、3年前から1/3減少したことを指摘し、「今や自民党を支持するのは業界団体と古くからの党員だけ。無党派層からは完全にそっぽを向かれた」と評する。
特に顕著だったのは、自民党の「保守王国」での敗北だ。全国32の1人区では14勝18敗と負け越し、東北は1勝5敗、四国は全敗だった。富山、宮崎、鹿児島といった保守王国でも敗北が相次いだのは、「全選挙区に擁立した参政党に保守層を切り崩され」、立憲や国民の候補に競り負けた結果だと分析されている。
「裸の王様」石破総理の続投宣言と党内の反発
衆参両院で過半数を割りながらも、石破総理はNHKの開票速報番組で続投を宣言した。鮫島氏はこれを「権力にしがみつく総理大臣は前代未聞」「もはや裸の王様」と厳しく批判する。
石破総理の続投に対し、麻生太郎元総理が続投を認めない意向を示すなど、党内では反発が起きている。野党の協力も総理大臣の交代が最低条件とされており、8月にトランプ関税への対応が一段落した後、石破総理が退陣し、9月に自民党総裁選挙を実施する可能性が高いと見られている。その後、新体制のもとで立憲、国民、維新のいずれか1党を連立に引き込み、過半数を回復する展開が有力視されていると鮫島氏は語る。
野党の明暗:立憲の事実上の敗北と国民・参政党の躍進
野党の動きにも明暗が分かれた。立憲民主党は改選議席と同じ22議席にとどまり、「自民党がこれだけ惨敗したのに野党第一党は横ばい」という事実上の敗北を喫した。比例も国民民主党と参政党と同じ7議席で、「自公批判票の受け皿として立憲民主党は選ばれなかった」と鮫島氏は指摘する。1人区で自民党に競り勝ったのは「立憲が支持されたわけではなく、全選挙区に擁立した参政党が自民票を切り崩した結果」とされ、「参政党の躍進に救われた」形だ。野田代表は自身の責任を認める姿勢は見せていないという。
一方で、国民民主党は目標の16議席を1つ上回り、第三極の主役を死守した。「山尾ショックで支持率が急落し、保守層が参政党へ流れ出した」状況の中で、若者や現役世代の支持を繋ぎ止め、都市部での強さを見せた。玉木代表は「約束を守らない石破政権に協力するつもりは全くない」と宣言しつつも、麻生元総理ら反主流派とのパイプを維持しており、石破総理が退陣し新しい総裁が誕生した後、所得税やガソリンの減税を条件に連立入りする可能性が十分に示唆されていると鮫島氏は分析する。
参政党も「日本人ファースト」を掲げ14議席を獲得し躍進した。比例では国民、立憲に並ぶ堂々の7議席を獲得し、得票数では立憲を上回り自民、国民に続く3位に食い込んだ。東京で2人当選するなど全国的な存在感を示したことは特筆すべき点だ。神谷代表は「自公政権とは政策ごとに賛否を決めていく。立憲とも是々非々だ」と述べ、第三極の立場を鮮明にした。しかし、核武装など過激な発言が報じられ、無党派層の一部が離れた側面も指摘されており、今後の「反グローバリズムの旗を掲げつつ、党のイメージをマイルドにし、無党派層の警戒感をいかに解いていくのか」が大きな課題だという。
日本維新の会は、3年前の比例で8議席獲得から今回は4議席にとどまり、「完全な失速」と評価されている。本拠地大阪では2議席を守ったものの、「大阪の地域政党へ逆戻りする可能性がある」と指摘されている。
公明党も改選議席の14から6議席減の8議席にとどまり、「党勢の低落は止まりません」。今後は「減税政策にさらに傾いていく」可能性が示唆されている。
共産党は「低落は止まりません」と評され、れいわ新選組も目標の7議席に遠く及ばず3議席に終わるなど、「参政党躍進で完全に埋没した」形だ。
今後の政局の焦点:石総理の退陣と新たな連立政権
今後の政局の最大の焦点は、石破総理の退陣時期だろう。8月中の退陣表明が有力視されており、9月の自民党総裁選を経て新総裁が選出されるかが鍵となる。
新総裁のもと、国民民主党、維新、あるいは参政党といった野党の一部を連立に引き入れ、衆参両院での過半数回復を目指す動きが予想される。特に国民民主党は、減税を条件に連立入りする可能性が高いと見られている。
野党の再編も注目される。立憲民主党は野党第一党の座を維持できるか、国民民主党や参政党の勢力拡大により、野党共闘の主導権争いが激化する可能性がある。今回の参院選は、日本政治の大きな転換点となる可能性を秘めている。
今回の参院選は、自民党の歴史的惨敗と石破首相の「裸の王様」状態を露呈させ、今後の政界に大きな混乱をもたらすだろう。野党は明暗が分かれ、特に参政党と国民民主党の躍進は、新たな政治勢力の台頭を明確にした。石破首相の退陣時期と、その後誕生する新総裁がどのような連立政権を築くのかが、今後の最大の焦点となる。はたして、日本政治は新たな時代へと突入するのだろうか――。
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