The Military Showが、ロシアのウクライナ侵攻の真の引き金を多角的に分析する。NATO拡大、ナチ化、ロシア系住民の保護といった表向きの理由だけではない、「より深く、古く、そして誰にも予想できなかったほど計算されている」動機に迫っていく。
NATO不拡大の「神話」と口頭保証の曖昧さ
ロシアは、NATOが「1インチも東に動かない」というドイツ統一時の口頭保証を果たさなかったことを、ウクライナ侵攻の「主要な理由」として挙げている。しかし、この主張は「厳密な精査には耐えられない」とされている。
ソ連のゴルバチョフ書記長に対する西側指導者たちの「口頭での保証」は何度も行われたとされているが、ゴルバチョフ自身は後にこの約束を「神話」であると述べている。ただし、機密解除された文書によれば、西側指導者たちがNATOの旧ワルシャワ条約機構国への拡大がソ連にとって「大きな懸念事項」であることを「十分に認識していた」ことは事実だ。それでも、「書面による約束は一切なかった」。議論や口頭保証はあったものの、「紙に書かれたものは何もない」のだ。
また、当時の議論と保証はあくまで「ソ連の利益と影響圏」に関するものであり、ソ連崩壊後の「ロシア」に関するものではない。1991年のソ連崩壊後、14カ国が独立国となったため、「1990年のソ連の領土的利益が35年後のロシアの利益と同等であるという主張は難しい」と指摘する。これらの独立国は、ソ連時代の支配からの脱却を強く望み、自らの意志でNATOへの加盟を求めた。これは、NATOが一方的に東へ拡大したというロシアの主張とは異なる事実だ。
さらに、バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)やフィンランドはすでにロシアと国境を接するNATO加盟国であり、「NATOはすでにロシアの玄関口に存在している」にもかかわらず、ロシアはこれらの国を侵攻していない。この事実は、ロシアが主張する「NATO拡大が侵攻の理由」という論理に矛盾が生じる。もし、NATOの拡大そのものが脅威であるならば、これらの国々に対しても同様の行動が取られていたはずだが、実際にはそうはなっていない。ウクライナには、他の国々にはない特別な地政学的・歴史的背景があったのだ。
プーチンの「レッドライン」とジョージア侵攻
ウクライナの地政学的特殊性が、今回の侵攻のより深い理由だと分析する。ロシアとウクライナの国境は1,196.6マイルと非常に長く、これは他のNATO加盟国との国境に比べて圧倒的に長い。そしてこの国境は、ロシアの「心臓部」を通り、「モスクワや他の主要な中心地から数百マイル以内」に位置する。このため、「ウクライナの国境は、他の国境が決してそうでない方法でロシアの弱点を露呈させる」。ウクライナがNATOに加盟すれば、ロシアの首都圏が直接的な脅威にさらされるというプーチンの恐怖は、想像に難くない。
ウィリアム・バーンズ(当時の駐露米国大使、現CIA長官)は、ウクライナのNATO加盟はプーチンだけでなくロシアのエリート層にとって「最も明確なレッドライン」であると忠告していた。しかし、NATOの政策立案者はこの忠告を無視し、2008年のブカレスト会議で「ウクライナとジョージアはいずれ加盟する」と宣言した。その結果、「すぐにロシアはジョージアと戦争状態になった」。
ジョージア侵攻は、領土紛争を作り出すことで、事実上ジョージアのNATO加盟を阻止するという目的を果たした。NATOの加盟プロセスは、「国際的、民族的、または外部の領土紛争を平和的に解決する」ことを国に要求しているからだ。この戦略は、2014年のロシアによるクリミア併合と、ドネツク、ルハンシク、ヘルソン、ザポリージャ各州の占領にも応用されている。これらは、ウクライナのNATO加盟を阻止するという「同じ目的を果たしている」と見られている。この戦略は効果的ではあるが、「とてつもなく血なまぐさく、費用がかかり、完全に不必要な戦略」でもある。
「防衛的帝国主義」という多面的な動機
ウクライナ侵攻の動機は、単純な帝国主義だけでは説明しきれない。複合的な要因が絡み合っていると分析する。
一つに、プーチンのイデオロギー的信念がある。プーチンは「ロシア人とウクライナ人は本質的に一つの民族」という考えを持っており、これは1654年のペレヤスラウ条約や、1954年のクリミア移管といった歴史的出来事に基づいている。ソ連時代には、この条約はウクライナとロシアの「再統一」として祝われ、そのイデオロギーは現代のロシアナショナリストにも深く根付いている。
また、プーチンは「ソ連崩壊後の屈辱を逆転させた指導者としての歴史的イメージを汚す」ことへの懸念も抱いていた。ソ連崩壊後の1990年代、ロシアは経済的・政治的に「落ちぶれた国」となり、この屈辱を払拭することがプーチンの政治的レガシーを確立する上で不可欠だった。
さらに、侵攻前の数年間、ロシア国内の状況は「徐々に悪化」していた。クリミア併合後の西側からの制裁やCOVID-19による世界的なロックダウンが経済を悪化させ、プーチンは「生活水準の低下、野党指導者アレクセイ・ナワリヌイの投獄をめぐる抗議デモ、ロシアのエリート層間の内紛」に直面していた。このような状況下で、「愛国的な戦争」は、「支持を集め、反対意見を排除する」ための「ハイリスクな賭け」だったと分析する。
最後に、プーチンは、NATOの訓練と米国製ジャベリン、トルコ製バイラクタルドローンなどの「ハイテク兵器」によってウクライナ軍が「力を増し、強くなっている」ことを「恐れて見ていた」。2022年までに、ウクライナ軍は「2015年にロシアが支援するドンバス分離主義者にデバルツェボから撤退させられた時と同じ軍隊ではなかった」。ウクライナ軍の急速な近代化と強化は、プーチンにとって見過ごせない脅威となっていたのだ。
これらの複合的な要因を考慮すると、プーチンの動機は「生々しい攻撃性」というよりも「防衛的帝国主義、つまり貪欲さよりも恐怖に基づく戦争」である可能性が高いと結論付ける。
「プーチンは、ウクライナがNATOに加盟するのを阻止するために侵攻する必要はなかった」とThe Military Showは指摘する。クリミア問題が未解決である限り、ウクライナのNATO加盟は困難だったためだ。しかし、彼は最も過激な手段を選んだ。
はたして、プーチンはなぜこのような「とてつもなく血なまぐさく、費用がかかり、完全に不必要な戦略」を選択したのだろうか――。その答えは、彼が抱える深い恐怖と、歴史的屈辱の克服への執着にあったのかもしれない。
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