著述家の谷本真由美氏は、イギリスの新興右派政党「リフォームUK」が「イギリス国民ファースト」を掲げ、既存政党への国民の強い不満を背景に急成長していると指摘した。コロナ禍での大規模解雇や燃料費高騰、そして労働党の増税政策が国民生活を圧迫し、「きちんと生活ができる政策をやってほしいという国民の不満」を汲み上げていることが支持拡大の要因だと解説した。
「保守党の分家」リフォームUK:国民ファーストの旗を掲げて
長らく保守党と労働党の二大政党が支配してきたイギリスの政治地図に、新たな勢力が台頭している。それが、ナイジェル・ファラージ氏率いる「リフォームUK」だ。著述家の谷本真由美氏が、この新興政党がなぜ国民の支持を集め、政権獲得の可能性すら見え始めているのか、その背景を詳細に解説した。
リフォームUKは、もともとEU離脱を推進したナイジェル・ファラージ氏によって設立された。ファラージ氏は目標達成後、イギリス独立党(UKIP)を離れ、「イギリスには改革が必要だ」としてリフォームUKを立ち上げたという。谷本氏によると、現在のリフォームUKには、旧保守党の政治家が多く移行しており、「実質的に保守党の分裂によって形成された側面」があるという。
リフォームUKの主張は明確だ。「イギリス国民ファースト」を掲げ、具体的には「イギリスの一般市民が生活できるようにする」ことを訴えている。不法移民の追放を主張する一方で、経済政策においては税負担の軽減を強調する。谷本氏は、「国民が極端化したり排外主義になったりしているわけではなく、むしろ『きちんと生活ができる政策をやってほしい』という国民の不満」を汲み上げている政党だと分析する。
なぜ支持が拡大するのか:国民を苦しめる既存政党の政策
リフォームUKが急速に支持を拡大する背景には、既存の二大政党である保守党と労働党への国民の強い不満がある。
コロナ禍と経済停滞がその大きな要因の一つだ。コロナ禍において、イギリスでは金融、航空、小売、飲食など様々な業界で「大規模な解雇」が行われ、多くの失業者が出たという。日本が雇用維持に努めたのに対し、イギリスでは労働法の規制緩和が進んでおり、企業都合での解雇が容易であったことが背景にある。さらに、コロナ終息後も経済回復が遅れ、解雇された人々の再雇用が進まなかったことが国民の不満を募らせた。
燃料費・物価高騰と政府の対応も国民の生活を直撃した。ロシアによるウクライナ侵攻後、燃料費が大幅に高騰。日本が燃料供給先の多様化や補助金政策で対応したのに対し、イギリスや欧州大陸諸国では補助金が少なく、一般家庭の光熱費が「倍以上(月10万円以上)に跳ね上がるケースもありました」。これにより、国民は食費を削ってでも光熱費を捻出せざるを得ない状況に陥ったという。政府が雇用活性化や産業活性化のための積極的な政策を行わなかったことで、国民の怒りが蓄積した。
さらに、谷本氏は労働党への失望と政策転換がリフォームUKへの支持を後押ししていると指摘する。労働党は減税どころか増税を行い、特に小売店や個人事業主向けの固定資産税(ビジネスタックス)や社会保障費の企業負担を大幅に引き上げたことで、「多くの企業が倒産に追い込まれました」。また、高齢者向けの冬の燃料費補助(年間約3万円)を廃止しようとしたことで、年金生活者を中心に「高齢者の強い反発」を招いた(後に撤回された)。労働党が国民の生活苦よりもLGBTQ支援などの「多様性」に予算を割いていると国民が感じていることも、不満の原因となっているという。
このような状況の中、リフォームUKは多様な支持層を獲得している。労働党を伝統的に支持していた移民の人々でさえ、個人事業主や小規模企業経営者が多いため、労働党の増税政策に反発し、「リフォームUKに投票するケースが増えています」と谷本氏は語る。
政権獲得の可能性:「生活ができない状況」が原動力に
リフォームUKはすでにその勢いを示している。2023年5月初めの地方選挙では、リフォームUK系の地方議員が「過半数に近い票を獲得しました」。これは、保守党や労働党の地盤が強い地域で労働党が圧勝するという、驚くべき結果であったという。
谷本氏は、現在の国民の不満の蓄積とリフォームUKへの支持拡大の状況から、将来的にリフォームUKが「イギリスの政権を取る可能性は十分にある」と見ている。国民が既存政党の政策では「生活ができない状況」にあるため、リフォームUKの「不満を救い上げる」「何とかしてあげる」という姿勢が支持を得ているのだ。
イギリスで急速に支持を拡大するリフォームUK。その背景には、国民が既存の政治に「うんざりしている」という強いメッセージがある。はたして、この「イギリス国民ファースト」を掲げる新興勢力は、本当にイギリスの政権を握り、国民の生活を立て直すことができるのだろうか――。その動向は、他国の政治にも大きな影響を与えることになるだろう。
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