ジャーナリストの及川幸久氏が、アラスカで開催されたトランプ・プーチン会談の裏側を分析する。ウクライナの領土譲渡を最大の争点としつつ、西側に凍結されたロシアの資産をウクライナ復興に充てるという新たな案が浮上している。会談に向けた水面下の駆け引きと、今後の展望を読み解く。
ウクライナ戦争終結に向けた新たな交渉カード
8月15日(日本時間16日)にアラスカで開催されたトランプ・プーチン会談。最大の争点はウクライナの領土譲渡である。ロシアはすでにウクライナ東部4州とクリミアを占領し併合しているが、ゼレンスキー大統領は「一切行わない」と主張し続けている。
この領土譲渡問題が交渉の最大の壁となり、これまでのあらゆる交渉が決裂してきた。及川氏は、今回もこの問題が解決しない限り、合意に至ることはないと見ている。
しかし、この難航する交渉に新たなカードが浮上している。それは、西側諸国に凍結されている約3500億ドルのロシア政府資産を没収し、ウクライナの復興資金としてウクライナ国民に引き渡すという案だ。
ゼレンスキー大統領も「ロシアのこの凍結資産を没収すべき時だろう」と発言しており、この案が領土交換に代わる取引材料となる可能性を示唆している。及川氏は、3500億ドルは戦後のウクライナ復興にとって「十分な額」であると評価する。
会談に向けた周到な水面下の駆け引き
トランプ・プーチン会談の成功に向けて、水面下では周到な交渉が進められていた。及川氏は、その動きの一つとして、先週末にJDバンス米副大統領がロンドンを訪問したことを挙げる。
バンス副大統領の目的は、ゼレンスキーを後押ししているヨーロッパ諸国の首脳、特に「グローバリスト」たちを説得することであった。この協議には、イギリス、アメリカ、EU、フランス、ドイツ、イタリア、フィンランド、NATOの代表者が出席したという。
この協議の結果、ヨーロッパ側はウクライナの領土譲渡を受け入れた兆候がいくつか見られると報じられている。
一方で、イギリスのスターマー首相がゼレンスキーと電話で話した際、ゼレンスキーは依然として「一切行わない」と強調した。しかし、親ウクライナ・反ロシアの立場だったリンゼイ・グラハム上院議員が、トランプ大統領とのゴルフ後、「今回の会談で停戦合意になるだろう」と急に前向きな姿勢に転じたことは、トランプ政権が多方面に働きかけ、準備を進めていることを示唆している。
未解決の課題と今後の展望
今回の会談では、すべての条件が決まるわけではないと及川氏は予測する。ウクライナの中立化、NATOへの加盟阻止、停戦後のウクライナ国内への外国軍(ヨーロッパ軍)駐留阻止といった課題は、次回の会談に持ち越される可能性が高い。
ゼレンスキー側の動きと個人の思惑
ウクライナ戦争終結に向けた準備らしき動きは、ゼレンスキー側にも見られる。彼はウクライナ国民に対し、22歳未満の若者が海外へ渡航することを許可すると約束した。これはこれまで徴兵逃れとして許可されていなかったことだ。
また、トルコの新聞によって、ゼレンスキーがUAEの銀行口座に「5000万ドルを送金していた」ことが報じられた。過去にも毎月5000万ドルずつ送金していた可能性が示唆されており、これが戦争終結に向けた個人的な準備の一環である可能性も指摘されている。
はたして、今回の会談はウクライナ戦争終結の糸口となるだろうか――。
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