中央大学教授の中北浩爾が語る、日本の政治の課題と展望──「フェイクニュース」が流通し「標準治療」が埋没する危機

中央大学教授の中北浩爾が語る、日本の政治の課題と展望──「フェイクニュース」が流通し「標準治療」が埋没する危機 国内政治
中央大学教授の中北浩爾が語る、日本の政治の課題と展望──「フェイクニュース」が流通し「標準治療」が埋没する危機

中央大学教授の中北浩爾氏が、現在の日本の政治が直面する多岐にわたる課題について深い洞察を披露した。今回の参議院選挙の性質から情報化社会における政策論争の質の低下、そして選挙後の政治シナリオまで、多角的に分析。国民が「質の高い情報」に基づいて、中長期的な視点で国益を追求する政党を選ぶことの重要性を訴えた。

「事実上の政権選択選挙」ではない参院選の真実

中央大学教授の中北浩爾氏は、今回の参議院選挙を「事実上の政権選択選挙」とは見ていないと断言する。その理由として、「野党は非常にバラバラでまとまって政権を作るという体制ができていません」と指摘する。

昨年の衆院選後、自公政権は様々な野党との協力により98%超という高い法案成立率を達成したものの、中北氏は「積極的に自公が局面を打開できたのかというとそういうことは言えない」と評価。これは「目先はうまくいったけれども、中長期的に見るとうまくいってない」状況を示唆していると語る。

情報化社会の落とし穴:政策論争の質の低下

中北氏が特に憂慮するのは、情報化社会における政策論争の質の低下である。「フェイクニュースの問題」だけでなく、「かつてであればこれはちょっとないよねという政策が堂々と大手を振って流通している」現状を批判。これを「医学の世界で標準治療と民間療法がある」ことに例え、「標準治療的なものと民間療法的なものが政策論として、選択可能なものとして流通してしまっている」と警鐘を鳴らす。特に財政面でこの傾向が顕著であり、テレビ討論などでも「言いっぱなしみたいな形」になっていると疑問を呈した。

情報にも質というのがある」と強調し、大手メディアの役割や専門家の知見に基づいた情報発信の重要性を訴える。現状のネット社会では「こういうプロセスがないまま発信されたものが、大手を振っている」と述べ、質の高い情報が国民に届きやすい環境の必要性を力説した。

争点のズレと政党の戦略的課題

参議院選挙の最大の注目点は「物価高対策だった」と中北氏は指摘する。しかし、与党である自民党が本来得意とする「外交安全保障政策とか経済政策」に争点を設定できず、「物価高」という足元の問題に引きずられた形になったと分析する。

野党(立憲民主党など)もまた、「消費税減税」や「給付」といった分かりやすい政策に流れてしまい、「政策論的には色々考えられたことがあるんですけれども、土俵の設定に失敗している」と述べ、政策論争の深まりが欠如していたことを示唆した。

選挙終盤で外国人政策が盛り上がったことについても、世論調査では外国人労働者の受け入れに賛成意見が多い(2024年朝日新聞調査で62%)ことやインバウンドへの肯定的評価が高い(68%)ことを挙げ、「日本国内で外国人排斥運動が燃えている」状況ではないと見ている。むしろ、「自民党批判で特定の政党が伸びて、その政党が外国人政策を争点にしている」ために問題が顕在化したと分析している。

選挙後の政治シナリオと連立の可能性

衆議院で過半数を割っている与党は、「連立の枠組の拡大」を視野に入れる必要があると中北氏は指摘する。仮に石破総理が辞任すれば「解散総選挙という選択肢もゼロではなくなる」と予測する。

野党が連合政権を形成する状況ではないため、今後の政治は「総理大臣が誰かにかかわらず自公政権などを軸に、どっかの政党と組んでいく」構図が続くと予測している。最も有力な連携先として「日本維新の会」を挙げ、その理由として昨年からの補正予算・本予算成立への協力実績を挙げた。国民民主党については、その性格の変化や減税政策への非妥協的な姿勢から、自民党が「組みにくい」と判断している可能性があるという。

立憲民主党との大連立については、財政面での可能性を認めつつも、「選択的夫婦別姓であるとか企業団体の廃止の問題というのがかなり強い争点として残ってる」ため、「ハードルが現状では高い」と見ている。

日本が直面する国際・国内課題と政治の役割

国際的には「中東あるいはウクライナの戦争」や「トランプ関税」など「激動の状況」であり、「比較的安定した枠組」の形成が必要だと中北氏は強調する。現在の国内の論戦が「ちょっと内向きかな」と懸念を示している。

国内的には「社会保障制度の持続可能性」が重要課題であり、財政的な持続可能性も併せて考慮すべきだと述べる。財政面では、長期金利の高騰や格付けの問題が「深刻な問題」であり、「金融系の話してても深刻な問題」と現状に疑問を呈した。民主主義のプロセスで是正できない場合、市場が「警告を発するような状況にもなりかねない」と警鐘を鳴らした。

「代表民主主義が機能するのか」という問い

中北氏は、「我々は直接民主主義じゃありません、代表民主主義です」と述べ、国民が選んだ代表である政党や政治家が「国民のために国民の長期的な幸福のために政治を行っている」という本来の役割を強調した。

政治家や政党を「患者と医者の関係」に例え、「政治のプロである政党や政治家というのは国民の長期的な幸福のために政治を行っているのであって」と語る。しかし現状は、「患者がちょっと苦い薬を飲むのが嫌だからもうちょっと酒飲んでいいですか?まあいいですみたいな感じになっている」状況であり、「医者が民間療法を進めてるようだ」と批判した。

国民は「どの政党や政治家が中長期的に国民のことを考え、処方箋をオファーしてるのかってことを見定めてやはり投票する」必要があると締めくくった。これは「代表民主主義が機能しているのか機能するのかという問題と直結している」と結論付けている。

中央大学教授の中北浩爾氏の分析は、日本の政治が短期的なポピュリズム、情報環境の悪化、そして政党間の協力の難しさという多層的な課題に直面していることを示した。国際的な不安定性が増す中で、国内の論戦が内向きになっていることへの懸念が強く示された。選挙後には、連立の枠組み拡大や首相の去就など、日本の政治のあり方を決定づける大きな動きが生じるかもしれない。最終的には、国民が質の高い情報に基づいて、中長期的な視点で国益を追求する政党や政治家を選び、代表民主主義が適切に機能するかが問われている。果たして私たちは、真の「標準治療」を選ぶことができるのだろうか。

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