感染症専門医である大阪大学教授の忽那賢志氏が、2025年時点の新型コロナウイルスの最新情報とワクチンの現状について解説する。パンデミック当初と比べ、ウイルスの性質やワクチンの役割が大きく変化していることを強調し、「正しく伝える必要がある」と訴える。流行状況の推移や今後の変異株のリスク、そして「重症化リスクの高い人」へのワクチン接種推奨など、変化するコロナとの付き合い方について詳しく解説する。
コロナの現状:変化するウイルスの性質と波の推移
新型コロナウイルスが大流行していた当初から第一線で診療に当たってきた忽那賢志氏は、当時の状況を「我々が経験したことないような新しい感染症の、すごい大規模な流行」だったと振り返る。自身も「手探りでなんとかやってきた」と語り、その経験が次のパンデミックに活かされるべきだと述べる。
かつて連日ニュースになっていたコロナの情報は、2023年5月の5類感染症への移行をきっかけに減少した。現在、感染者のカウント方法は「定点あたりの報告数」となっており、全ての感染者が正確に数えられているわけではない。しかし、厚生労働省のデータを見ると、5類移行後に4つの大きな波があり、ピークの大きさは「だんだん山がちょっとずつ小さくなってきている」傾向にあるという。
これはコロナ患者の数が「少しずつ減ってきている」ことを示唆するが、同時に、「風の症状、熱の症状、これコロナかもしれないけど重症化しない、しなくてもいいかっていう人が一定数いらっしゃる」ため、必ずしも大幅な減少とは言えない可能性も指摘する。
重症化する人の割合が減少:オミクロン株とワクチンの変化
忽那氏は、5類感染症への移行は感染者数の減少だけでなく、「重症化する人の割合が減ったから」だと説明する。特にオミクロン株の出現により、ウイルス自体の病原性が低下し、ワクチン接種者の感染においても重症化しにくくなったことが大きいという。
パンデミック当初、コロナの症状として特徴的だった「匂いがわからないとか味がわからない」といった症状は、「今はそういう症状をおっしゃる人が少なくなってる」という。現在のコロナ感染者の多くは、「熱が出て鼻水が出て喉が痛くて咳が出る」といったインフルエンザと「ほとんど同じような症状」を示すため、「インフルエンザの患者さんとコロナの患者さんがいて、どっちがコロナどっちがインフルエンザかって言われてももう分からない」ほどだ。
ワクチンの役割の変化と今後の流行予測
ワクチンの役割も当初とは大きく変化している。オミクロン株出現以前は、「感染を防ぐプラス重症化を防ぐ」効果が高く、デルタ株流行後には感染者が激減する時期もあった。しかし、オミクロン株はワクチン接種者でも感染してしまうことが多く、「最後の摂取から時間が経つと、感染を防ぐ効果はかなり弱くなってしまう」という。そのため、現在のワクチンの役割は「感染を防ぐためにワクチン打つというよりは、重症化を防ぐためにワクチンを打ちましょう」というものに変わっている。特に「高齢者の方と持病のある方」が積極的に接種すべきだと推奨する。一方、「重症化しにくいような若い健康な方」にとっては、「ワクチンを打つメリットは相対的に減ってる状態」だ。
忽那氏は、沖縄から流行が始まり、九州、本州へと波及する「夏の今後の流行」を予測する。これは、沖縄の気温が高く、「早くエアコン使い始めて換気が悪くなったり」することが影響している可能性があるという。長期的にはコロナの流行もインフルエンザのように「年に1回とかの流行に変わっていく可能性はある」と見ている。
しかし、注意すべきは「全く新しい変異株」の出現だ。現在主流のオミクロン株に対しては、日本人の6~7割が感染経験を持ち、集団免疫ができてきているため「山が小さくなってきている」状況だが、オミクロン系統ではない全く新しい変異株が出現すれば、「オミクロンが最初に広がった時みたいな爆発的な流行が起こる可能性がある」と警鐘を鳴らす。
ワクチン株の選択と情報発信の重要性
現在、世界中で主流となっている変異株はオミクロンの派生株である「NB1.8.1」である。しかし、この秋冬のシーズンに向けて作られる予定のワクチンは、「LP8.1」に対応したものである。この選択について、忽那氏は「私もそう思います」と述べ、NB1.8.1向けの方が良いのではないかという意見に同意する。しかし、この二つの株は「基本同じオミクロン株から派生したもの」であり、「全く効かないってことはない」という。また、シーズン開始時までにさらに別の変異株が増える可能性もあるため、「完全に当てるのはやっぱり難しい」のが現状だ。
メッセンジャーRNAワクチンは「短時間でワクチンが作れる」ため、以前よりも流行株に合わせたワクチン開発が可能にはなっている。しかし、忽那氏は、パンデミックを通じて「ワクチンの役割とか、ウイルスの症状とかが最初の頃とだいぶ変わってきてる」にもかかわらず、その情報が「正しく伝えられてない」ことに懸念を示す。専門家として「しっかりと伝える必要がある」と改めて強調する。
感染症としてのコロナと今後の課題
コロナは重症化しなくても「辛い病気」であり、後遺症に悩む人もいるため、「やっぱり感染はしない方がいい」と忽那氏は言う。そのため、流行時には「人混み避けるとか、マスクつけるとか」といった基本的な感染対策は続けるべきだと助言する。
また、懸念される後遺症については、「今のところまだ治療法がない」状況だという。今後の課題として、「全く新しい変異株が出てきて、大きな流行が起こるだろう」というシナリオも考慮しておく必要がある。
感染症専門医の忽那賢志氏が語るように、新型コロナウイルスを取り巻く状況は、パンデミック当初から大きく変化している。ウイルスの病原性やワクチンの役割が変容する中で、正しい情報をいかに迅速かつ正確に伝え、国民が適切な行動をとれるようにするかが、今後の感染症対策の鍵となるだろう。季節性インフルエンザのように年1回の流行に収束する可能性も示唆される一方で、新たな変異株の出現が再び爆発的な流行を招くリスクも否定できない。私たちは、変化する状況を理解し、冷静かつ現実的な対応を続けていく必要がある。
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