衆議院議員の塩崎彰久氏が、日本の外国人政策、特にクルド人問題を巡る「モヤモヤ感」について語った。SNS等で感情的な議論が先行する現状に対し、塩崎氏は「空気じゃなくて事実でしっかり判断されるべき」だと述べ、問題解決のためには「入り口」「審査」「出口」の3つのステップに分けて考える必要があると強調した。
川口のクルド人問題と難民政策の現状
塩崎氏は、川口での現地調査を通じてクルド人問題の実態を把握しようと試みた。現地での印象について、「SNSなどで取り上げられてるものはやっぱり一部誇張されている部分がある」としつつも、ヤード(解体場所)の存在や住民の不安があることも確認した。この問題は、移民政策というよりも「難民政策の方の問題」と明確に区別すべきだと塩崎氏は指摘。川口に滞在するクルド人の多くは、観光ビザで入国後に難民申請を行い、そのプロセス中に滞在している人々であり、その数は約3,500人に上るという。
トルコ籍のクルド人の場合、日本への入国にビザが不要なため、観光ビザで入国後、難民申請を行うケースが多い。難民申請中は「特定活動」の在留資格が付与され、日本での就労が許可される。しかし、初回の難民申請が不認定となっても再申請が可能であり、これにより長期滞在に繋がるケースが多い。2023年時点で、再申請中の人が1,098名おり、そのうち738名が退去強制令書が発布されているにもかかわらず国内に滞在している状況だ。
難民認定の現状は非常に厳しい。塩崎氏によると、「これまでトルコ籍でクルド人の方で難民認定されたのはたったの1人だけ」であり、実際には過去に3~4人程度と非常に少ないという。これは、エルドアン政権下ではPKKなどの武装勢力以外に対する迫害が表立って行われていないため、単にクルド人であるという理由での難民認定は認められにくくなっているためだ。トルコ国籍からの難民申請者は年間約2,400人いる一方で、年間処理件数は約1,700人であり、毎年約700人ずつ「積み残し」が増加している現状がある。
入管法改正により、複数回の難民申請を繰り返して日本に滞在し続けるという制度の歪みは是正されたと塩崎氏は強調した。「1回ダメになってもう1回申請をして3回目を出した時に退去強制が出でていたらそちらの効力は執行しない」ことになったという。
難民問題解決のための3つのステップ
塩崎氏は、問題解決のために「入り口」「審査」「出口」の3つの段階で具体的な提言を行っている。
入り口の対策
トルコからの難民申請者が多い一因は、日本への入国にビザが不要であることだ。他の国(アメリカ、オーストラリアなど)ではビザ取得に際して厳しい審査があるため、日本が「ハードルが非常に低い」入国先となっている。そこで塩崎氏は以下の提案をした。
- 日本版ESTA(JESTA)の早期導入:アメリカのESTAのように、事前に電子的に入国審査を行う仕組みを導入し、入国時の事前スクリーニングを強化する。現在2030年導入予定だが、「1年でも2年でも前倒しできないか」と早期導入を求めている。
- トルコとのビザなし協定の見直し:長年の歴史的関係から1958年からビザなし協定が結ばれているトルコとの協定を見直すことを提案。外交的な影響は大きいが、トルコ政府との協議の俎上に載せるべきだと主張した。
- 査証取得勧奨制度の導入:ビザなし協定の完全な破棄ではなく、ビザの取得を「推奨」する制度。過去にマレーシアなどで導入実績があり、これにより入国審査をスムーズに進め、疑わしい場合には厳しく質問する運用が可能となる。この提案に対し、外務省も前向きな姿勢を示している。
塩崎氏は、「入り口を閉めることによってこの問題をさらに大きくしない」ことが重要だと強調した。
審査の対策
難民申請の標準審査期間は6ヶ月とされているが、実際には平均27ヶ月、不服審査まで含めると36ヶ月(3年)もかかっている。塩崎氏は「申請者と処理能力のその需要と供給のキャパが合ってない」と述べ、入管のキャパオーバーが原因であると指摘する。対策として、以下の点を挙げた。
- 入管体制の抜本的強化:年間に入ってくる難民申請の数をその年に処理できるだけの入管の人員増強を求める。鈴木大臣も体制強化の必要性を認識しているという。
- 審査手続きの効率化:言葉の壁などにより手続きに時間がかかる現状を改善するため、AIや自動通訳などの技術活用も検討する必要がある。
出口の対策
退去強制令書が発布されているにもかかわらず日本に滞在し続けている738名の人々がいる現状は「法執行の空白」だと塩崎氏は指摘する。強制送還には多大な手間と費用(チャーター機、護衛官など)がかかるため、十分な予算とサポートが必要だ。対策として、以下の点を挙げた。
- 強制送還予算の増強:2024年度補正予算で強制送還費用に8,300万円が計上されたことを評価しつつ、継続的な予算措置の必要性を訴えた。
- 入り口対策の重要性:塩崎氏は、「今いるこの3500人の方をできるだけ早く処理してまあ認める人は認めて帰っていただく人は帰っていただくこれがとっても大事なこと」だと述べ、最も効果的な対策は入り口を締めることであると強調した。
日本の移民政策の今後と社会との調和
塩崎氏は、クルド人問題が難民政策の問題であると明確に区別しつつ、日本の今後の移民政策についても言及した。日本は国策として、優秀な外国人労働者に日本経済・社会の発展に貢献してもらいたいと考えているが、世界各国が優秀な人材を奪い合っており、簡単に日本に来てもらえるわけではないと現状を認識している。
労働力不足への対応として、より幅広い層の外国人に来てもらう必要があるという。そのための具体的な取り組みとして、従来の技能実習制度から育成・就労制度への移行を挙げた。新たな制度では、日本でスキルを身につけた後、希望すれば日本に定住する選択肢が増える。これにより、結婚や家庭を持つ外国人が増える可能性も指摘した。
多文化共生社会のインフラ整備も不可欠だと強調する。「自治体ごとに判断をしてどういう街づくりをしてきたいのか」を主体的に選択する時代が来るとの見方を示した。
外国人受け入れに賛成する意見とヘイト的な意見の二項対立ではなく、「政治の責任っていうのはまさにこの調和の設計」であり、社会の調和を追求することの重要性を強調した。
クルド人問題は、日本の難民政策における喫緊の課題であり、特に「入り口」での水際対策の強化が最優先されるべきだ。JESTAの早期導入や査証取得勧奨制度の検討、入管体制の強化、そして強制送還体制の整備といった具体的な対策が求められる。同時に、日本の移民政策は、優秀な人材の誘致と労働力不足への対応を両立させながら、地域社会での多文化共生を促進するためのインフラ整備と、国民の不安を解消するための調和の取れた政策設計が不可欠だ。感情論に流されず、事実に基づいた議論と具体的な解決策の推進が、国民の不安を解消し、持続可能な社会を築く上で重要である。
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