軍事評論家の小泉悠氏は、ウクライナ戦争が3年5ヶ月目に入り、ロシアが「今年ぐらいが勝負の年」と見て大規模攻勢をかけていると指摘した。しかし、戦況は「膠着にはしている」との見方を示す。ロシアは「今の規模で戦争をもう何年も続けられない」ほど財政的・人的負担が重く、プーチン大統領が軍事支出削減計画を表明したことも、その限界を示唆しているという。
ロシアの攻勢強化と「今年が勝負の年」
ウクライナ戦争は3年5ヶ月目に入り、特に今年春以降、ロシア軍の地上での攻勢が激化している。東部のドンバス地方だけでなく、南部のザポリージャ方面からも攻勢をかけ、ウクライナ軍は厳しい立場に置かれているという。
小泉氏は、ロシアが攻勢を強化している背景について、「今の規模で戦争をもう何年も続けられないっていうのは見えてきてると思うんですね。財政負担が大きいし、予備の兵器も枯渇しつつあるし、あまりにも人間もたくさん死なせすぎた。やっぱり今年ぐらいが勝負の年という風にロシア見てるんだと思うんです」と指摘する。ロシアは、ウクライナを完全に滅ぼすことはできないまでも、諦めて降伏するほどの戦果を上げたいと考えており、かなりの損害を覚悟の上で大規模攻勢をかけていると見られている。
戦況は「膠着状態」か?
しかし、マクロで戦況を見ると、ロシアが確保したウクライナの国土は昨年1年間で約0.7%に過ぎない。仮に今年3倍のペースで前進したとしても2.1%に留まるという。小泉氏は、「これを5年10年続けられたら話は別かもしれませんけど、どう考えても5年10年は今の規模では続かないということを考えると…やっぱり膠着はしているという風に私には見えます」と述べ、戦争は依然として膠着状態にあるとの見方を示した。
また、ウクライナがロシア領内の戦略的兵器に攻撃を仕掛け、ロシアの爆撃機10数機に損傷を与えたノヴォシビルスク作戦についても言及した。小泉氏は、「これだけではウクライナに対する空爆は封じられないんですけど、やっぱこうウクライナに対する援助は無駄ではない。またはロシアが一方的にウクライナをボコスカやれるわけではないということを示した意味では重要」と評価している。
アメリカの兵器供与一時停止と政治的メッセージ
アメリカによるウクライナへの兵器供与の一時停止については、兵器の在庫逼迫も事実だが、小泉氏は米軍で全く使用されていない古いミサイルAIM-7の供与停止など、在庫状況とは無関係な品目の停止があったことを指摘する。「これってかなり政治的なモチベーションでなされた一時停止なんじゃないのっていう風に…おかしいじゃんって話はありましたね」と、政治的なメッセージとしての側面が強いことを示唆した。
ゼレンスキー大統領とトランプ大統領の会談が「過去最高の会談」と評されたことについても、ウクライナ側がトランプ氏に配慮した発言であった可能性を示唆した。
ヨーロッパによる兵器調達の動き
停戦や地上戦の進展が難しい中で、特に民間人への被害が大きいミサイル攻撃への対応として、防空システムの支援が重要視されている。一時停止された供与品目にも防空関連のものが多く含まれており、ウクライナ側は有償でのパトリオットシステム供与を求めている状況だという。
ドイツなどがパトリオットシステムの購入・供与に前向きな姿勢を示しており、小泉氏は「作れないから売ってくれという枠組を作れるかどうかがこの夏の非常に大きな焦点になってくるのかなと思います」と述べ、ヨーロッパが資金を出す形で、アメリカからの兵器調達を進める動きが活発化していることを指摘している。
ロシアの軍事支出削減計画と経済の限界
プーチン大統領が来年以降の軍事支出削減計画を表明したことは、戦時下におけるロシア経済の限界を示唆しているという。平時の約6兆円から、現在は13兆5000億ルーブル(約4倍)にまで膨れ上がった国防費は、ロシアにとって大きな財政負担となっている。小泉氏は、「相当財政負担としては重いんだろうなと」と述べ、予算編成時期と重なるこの時期に削減表明があったことを指摘した。
これまでのロシア経済は、インフレによってある程度の成長を維持してきたが、今後は経済成長の鈍化が見込まれている。プーチン大統領も「インフレと戦わなければいけなくなってるんだと」と述べ、経済状況の悪化を認めるような発言をしている。小泉氏は、ロシアが段階的な削減を行う可能性が高いと見ている。
小泉悠氏の分析は、ウクライナ戦争が「膠着状態」にあることを明確に示している。ロシアは今年を「勝負の年」と見て大規模攻勢をかけているものの、その財政的・人的な負担は限界に近づいているようだ。プーチン大統領が軍事支出削減計画を表明したことは、その疲弊の証だろう。はたして、ロシアはこれ以上の戦争継続をどこまで維持できるのだろうか――。そして、ヨーロッパ諸国が主導する形での兵器調達の動きは、ウクライナの抵抗力をどこまで支えられるのだろうか。
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