現在の日本の政治情勢は、自民党内の保守派が大きな岐路に立たされていることを示している。評論家の江崎道朗氏が、参議院選挙での敗北を受け、自民党保守派がいかに現状を分析し、今後の戦略を練っているのか、その内幕を詳細に解説した。江崎氏は、参院選敗北後の自民党保守派が、昨年総裁選で敗れた教訓から「派閥がなくなったことで、政策調整機能や人事構想の話し合いができなかった」点を課題と認識していると語る。石破総理交代の「大義」が生まれたことで、「創生日本」が動き出し、「新しい総理候補がどのような政権を築き、どのような政策を行うのか」という具体的な構想を練っていると明かした。
参院選敗北の教訓:保守派分裂と派閥なき時代の課題
江崎氏は、昨年高市氏が自民党総裁選の決選投票で敗れた際、党内の保守系議員が分裂し、高市陣営と小渕優子氏を支持するグループ、さらに加藤勝信氏らのグループに分かれたことが「敗因の一つ」だったと指摘する。その根底には、「派閥がなくなったことで、政策調整機能や人事構想(例:官房長官、財務大臣、党幹事長を誰にするかなど)の話し合いができなかった」という、派閥なき時代の課題があったという。
自民党内の非石破グループは、石破総理を交代させるには「大義」(正当な理由)が必要であると認識しており、以下の3つの主要な条件を共有していたという。
- 選挙に立て続けに負けること。
- 公約と異なることを行うこと。
- 日米関係を混乱させること。
これらの条件がすべて揃う必要はないものの、その度合いによって「大義」の重みが変わると江崎氏は語った。
石破政権交代への動き:「創生日本」の役割と戦略
今年2月、石破総理が突然「夫婦別姓」の導入に言及し党内で意見が割れたことや、トランプ大統領との日米首脳会談が必ずしもうまくいかなかったことなどから、自民党保守系議員の間で「石破政権交代の必要性」が高まったという。
この動きの中心となったのが、第1次安倍政権の政策を立案した母体である「創生日本」だ。江藤誠一幹事長と木原稔事務局長を中心に、夫婦別姓反対の議論や法案作成を始めた。その中で、単に夫婦別姓だけでなく「このまま石破政権で良いのか」という根本的な問いが共有されたという。
江崎氏が最も重要だと指摘するのは、「最大の課題は『倒した後どうするのか』」という点だ。新しい総理候補がどのような政権を築き、どのような政策を行うのか、また誰を主要閣僚・党幹部に据えるのかといった「具体的な政権構想と人事の枠組みを示すこと」が必要だと認識された。勝てる戦いをするためには、自民党の多数派を味方につけるための「多数派工作」が不可欠であり、そのためには国民民主党や参政党が支持を集める理由を分析し、自民党が打つべき政策を立て直すことが必要であると「創生日本」は考えた。
若年層の支持喪失とアベノミクスの「負の側面」
自民党が若手世代の支持を失っている点について、「創生日本」はアベノミクスの「負の側面」を分析する必要があると判断したという。財務省や厚生労働省はアベノミクスで経済が成功し、年収の壁の問題はないと主張していたが、「創生日本」はこれに反論できる専門家を招聘した。
招かれた専門家は、消費増税2回と社会保険料の増大によって、「年収250万円程度の低所得者層が経済的に非常に厳しくなっている」ことを分析し、現役世代や低所得者層には「税や社会保険料の減免が本当に必要である」という議論が「創生日本」の勉強会で共有されたという。これは、若年層が国民民主党や参政党を支持する背景を理解するためにも重要であった。
新方針「日本が目指すべき道」の発表と今後の展望
「創生日本」は、石破政権が行き詰まった際に、自民党に代替となる政策集団とチームが準備されていることを示すため、参議院選挙直前の6月29日に「日本が目指すべき道」という新方針を発表した。この方針は、高市氏個人だけでなく、小渕氏、世耕氏、木原氏、山田氏、竹内氏、萩生田氏など、自民党保守系の多くの議員が「コンセンサスを形成しながら作り上げてきたもの」だという。また、麻生氏の側近議員も参加している。
「創生日本」は最大で100名程度の規模であり、自民党の多数派ではない。そのため、石破総理を交代させるためには、引き続き「多数派工作」を行い、他の自民党議員や公明党、さらには国民に対して、石破氏を交代させた後の「具体的なビジョンとチームを提示して説得」する必要があるという。保守派は「今こそ決起せよ」といった声がある中で、単なる決起では玉砕するだけであり、「玉砕後も何もできない状況では意味がない」という認識が共有されている。そのため、「創生日本」は具体的な戦略と政策を準備し、「勝てる戦いをすることを目指しています」と江崎氏は語った。
自民党保守派が、かつての反省を踏まえ、緻密な戦略と具体的な政策構想を練りながら、石破政権交代への布石を打っている現状が浮かび上がった。はたして、「創生日本」が描く「日本が目指すべき道」は、自民党内の多数派を動かし、国民の支持を得ることができるのだろうか――。彼らの「勝てる戦い」への挑戦が、今後の日本政治の行方を大きく左右するかもしれない。
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