元駐豪大使の山上信吾氏が、2025年の日本外交が直面する「国難」とも呼べる厳しい国際環境について警鐘を鳴らす。中国、北朝鮮、ロシアの脅威が差し迫る中、戦後80年という「歴史カード」の利用に警戒しつつ、トランプ政権の登場を追い風と捉え、日米同盟を最大限に活用し、日本独自のナラティブを打ち出すことで、中国に対して毅然とした態度で臨むべきだと力説する。
「戦後80年」の罠と「そこにある危機」
2025年、日本を取り巻く国際環境は「本当に大変だ」と元駐豪大使の山上信吾氏は語る。東アジア・北東アジアでは、中国の軍備増強と「戦狼外交」、北朝鮮の核ミサイル開発と拉致問題の未解決、そしてロシアとの事実上の同盟関係、さらには韓国の内政混乱など、まさに「国難」とも表現される状況に直面しているという。
特に山上氏が警戒を促すのは、2025年が「戦後80年」という節目にあたる点だ。韓国を中心に「歴史カード」(徴用工問題、軍艦島、佐渡金山など)を振りかざし、「日本は謝罪し、賠償しろ」という声が高まることが予想されるという。これに対し、山上氏は「80年前に何が起きたかよりも、今そこにある危機が大事でしょ」と反論し、日本独自のナラティブを打ち出すべきだと主張する。
「白」に塗り替える「オセロゲーム」としての歴史認識
山上氏は、過去の謝罪からの脱却を訴える。決して「俺たちはね、何も悪いことしたんじゃないって開き直る」わけではない。そうではなく、「戦後の日本の歩みを見てくれと。日本が今国際社会に対してどういう貢献をしているのか、それを粘り強く訴える」ことが重要だと強調する。
南京大虐殺や慰安婦問題など、「相手方が言ってることはね、相当部分ね戦争中のプロパガンダなわけです」と山上氏は指摘する。これに対し、「非生産的なことはもうやめようじゃないですか」と毅然とした態度で臨むべきだという。
日本が「ひどいことした、悪いことした」と言われ、まるでボードが黒だらけになっている状況を、山上氏は「オセロゲーム」になぞらえる。「新しいナラティブを打ち出すことによって、黒だったものをもう白に変えてく」というゲームだ。日本にはそれをできる「ソフトパワー」があると山上氏は力説する。
トランプ再来は日本外交の「追い風」
山上氏は、トランプ政権の再来を日本にとっての「追い風」と捉えている。「ようやくトランプのような大統領がアメリカで来てくれたなっていうのは、本当にね、ある種の達成感持って見てんです」と語る山上氏。日本独自では中国と向き合えない現状において、「日米同盟の力を日本の国益のために利用して行くこと」ができるため、「日本にとっては僥倖だ」と見ているという。
クリントン政権やオバマ政権が中国の脅威を過小評価していたのに対し、トランプ政権は「中国のもたらす問題に対して目を覚ましてきた」。これは日本にとって非常に有利な展開だと山上氏は指摘する。特に、マルコ・ルビオ氏のような「尖閣諸島は日本の領土だ」「靖国神社参拝にアメリカは口出しすべきでない」と明確に主張する国務長官候補の存在を好意的に評価している。
さらに山上氏は、トランプ氏が日本の総理大臣と共に靖国神社を参拝することを提言し、「靖国神社に行くことはね、極右の行動なんだとね、国家主義なんだと、ファシストだというようなね、受け止め方これもう逆転させることできると思いますよ」と述べている。これは、保守主義の価値観に基づいて、国家のために命を捧げた人々を追悼することは当然であるというメッセージを発信する機会と捉えているのだ。
「台湾有事は日本有事」:毅然たる対応が不可欠
安倍晋三元総理の言葉「台湾有事は日本有事」を引用し、山上氏は「台湾海峡でドンパチが起きてどうなるんですか。もし台湾がね、中国共産党の支配に落ちることになれば海をコントロールする制海権も空をコントロールする制空権もみんな中国共産党のものになりますよ」と述べ、台湾が陥落した場合の日本の国防への深刻な影響を警告する。
日本政府が「国家安全保障戦略」で中国を「かつてない最大の戦略的な挑戦」と認識しているにもかかわらず、「戦略的互恵関係」を維持しようとしていることについて、山上氏は「敵か味方なんですかと、向こうなんですか、こっちなんですかと、そこの識別機能が全く働いてない」と厳しく批判する。
2022年8月に中国が日本の排他的経済水域にミサイルを撃ち込んだ際、外務次官が電話で済ませ、大使を呼びつけなかったことや、中国による水産物禁輸措置、日本人に対する切り付け事件などへの厳正な抗議が不足していることを指摘し、「どこか腰が引けてておかしいんです」と強く非難している。
山上氏は「一番危険なのは、中国は自分の力を過大評価して、日本やアメリカの力を過小評価した時に紛争は起きるんです」と語る。「俗な言葉で言うと、なめんじゃねえぞっていうことをね、それをやっぱり言動で時々示してかなきゃいけないんです」と主張し、中国への毅然とした態度を求める。
次期総理への期待と「外交における体力・強さ」
岸田氏や林氏など、現状で名前が挙がっている政治家は「中国との関係において全く弱い」とし、彼らが総理になれば「一番喜ぶのはもう中国共産党です」と山上氏は警鐘を鳴らす。
安倍元総理は、拉致問題や対中関係で「強すぎる」と批判されたが、結果として「外交ってのはその体力、強さ必要なんですよ」と山上氏は指摘する。目の前の相手に「頷いて妥協点を探る」ことから入れば「必ず軽んじられます」と強調する。
次期総理には、「国内でのね、やっぱり政治基盤がしっかりして、中国と正々堂々と向き合っていける人」を求めている。トランプ氏と安倍昭恵氏の会談は、「安倍政権がやってくれたことをちゃんと引き継げよと」というメッセージであり、「晋三が敷いたレールを確実に歩いていけよ」という意図であると山上氏は解釈している。
国民へのメッセージ:自信を持って世界へ打って出よ
山上氏は、30代・40代のビジネスパーソンに対し、「是非外交とか安全保障、仕事は仕事として関心を持って、もう見ていただきたいなと」と呼びかける。国民一人一人の声が日本外交を強くすると信じているのだ。
また、「侍大和魂」を持つ人材に「是非日本外交に携わっていただきたい」と、外務省への門戸を叩くことを奨励する。
最後に山上氏は、「自信持ってもらいたいんです」と訴える。「外交官っていうのは国を売る商売ですからね、日本という国を売ってね、こんなやりがいがあること感じたことないです」と語り、大谷翔平選手や各分野で世界で活躍する日本人の例を挙げ、「それを追い風に感じて世界に打って出て勝負してもらいたい」と激励した。
山上信吾氏の提言は、2025年を歴史の転換点と捉え、日本の外交がこれまで以上に「体力」と「強さ」を持って、中国の脅威に立ち向かうべきであるという強いメッセージだ。特に、トランプ政権の再来を好機と捉え、日米同盟を最大限に活用し、日本独自の毅然としたナラティブを国際社会に発信することの重要性を強調している。同時に、国内政治においては、中国に対し安易な妥協をせず、国益を最優先できるリーダーシップを求めている。国民一人ひとりが外交への関心を高め、日本という国に自信を持って世界に打って出ることが求められているのだろう。
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