評論家の伊藤貫氏が、激変する国際秩序における日本の危機的な現状と未来について語る。現在の三極構造から将来の四極構造への移行、アメリカの外交政策の裏側にあるディープステートの存在、そして「奴隷根性」に陥った日本の政府と国民に求められる根本的な変革とは何か。
激変する国際秩序:多極化の時代へ
伊藤貫氏は、現在の国際秩序を米国・中国・ロシアによる「三局構造」だと分析する。米国が依然としてナンバーワンだが、中国がそれに迫り、ロシアは両者に比べると劣るという。しかし、2040年にはインドが台頭し、「4極構造」になると予測されている。インドは人口世界一であり、高い経済成長率を維持しており、独立主義と中立主義を貫き、米国とロシア双方から兵器を調達することで交渉力を高めていると評価する。
一方で、日本とドイツは米国に「従属した状態」にあると伊藤氏は指摘する。米国のグランドストラテジーは、1992年の国防計画指針に示されたように、第二次世界大戦の敗戦国である日本とドイツの独立を阻止することを基本としていると述べる。
ドイツでは「ドイツのための選択肢(AfD)」が支持率トップとなり、米国からの独立を求める気運が高まっているという。しかし、米国政府はドイツ政府を通じてAfDを「過激派組織」として監視し、選挙からの排除を試みていると指摘される。これは、ドイツの独立が米国の欧州支配の基盤を崩すため、米国が何としても阻止したいと考えているからだと説明する。
しかし、日本にはドイツのような独立への動きが見られない現状が懸念されている。このまま米国に従属し続ければ、「日本は「中国の属国になるか否か」という選択を迫られる事態が「次の5年、10年、15年後に起きても不思議ではない」と伊藤氏は警鐘を鳴らす。
米国のディープステートと誤った戦略
トランプ政権の政策について、伊藤氏はトランプ氏が基本的に「戦争嫌い」であり、オバマやヒラリー、ブッシュなどと比較してましな点だと評価する。トランプ氏の究極の目標は、ウクライナや中東の安定化を図り、「中国包囲網」を形成し、人工知能や軍事、さらには中国共産党の体制変革まで目指しているという見方を提示する。しかし、伊藤氏はトランプ氏を「スキャブレインド」(注意散漫)と評し、「じっくり論理的に深くものを考える能力がない」と述べており、思考の散漫さを指摘している。
一方で、プーチン大統領とは対照的だという。プーチン大統領は深く考え抜き、一度結論に達すると徹底してそれを追求する人物だと評価されている。
米国の外交政策を動かす「ディープステート」の存在も指摘された。プーチン大統領の言葉を引用し、「アメリカの大統領と一対一で真剣な交渉をして何らかの合意に達しても無駄だ」という認識が示されている。これは、大統領の後ろには「ディープステート」が存在し、首脳同士の合意であっても数週間で覆されることがあるためだと説明する。トランプ氏がディープステートやグローバリズムと戦っているとしながらも、彼自身も戦い抜けない事情があるとされる。
トランプ大統領の周辺には、ネオコンに影響された「やたらに他の国に喧嘩をしかけたい」と考える「バカ」が多いと指摘する。彼らはコルビーやバンスのような賢明な人々よりも多数派であり、中東への介入など、本来中国封じ込めに集中すべき力を分散させている現状が危惧されている。
米国が中国とロシアという「二つを同時に敵に回してしまう」状況は「パー(終わり)」だと断言する。特に、バイデン政権がロシアとの戦争を始めたことで、中国とロシアの同盟関係が強化され、この「中露同盟」は「アメリカは潰せません」と強調する。
日本の外務省・防衛省に対しても厳しい批判が向けられた。日本を守るために米国が核戦争をするシナリオは「ありえない」という過去の米高官たちの発言が引用され、日本の外務省や防衛省が米国に頼っていれば助けてくれるという前提は「全部崩れてる」と厳しく批判する。
日本の「奴隷根性」と精神性の回復
日本の政府機関(外務省、防衛省、自衛隊、官邸、財務省)は、「アメリカにしがみついてればいいんだ」という「奴隷根性丸出し」の状態であり、自らの「グランドストラテジー」(最も基本的な国家戦略)を全く持っていないと痛烈に批判される。このため、米国からの要求に対して主体的な対応ができず、目先のことに流されていると指摘された。
米国の「ジャパンハンド」と呼ばれる日本専門家集団は、日本を「アメリカの属国」状態に置き、絶対に独立させない方が彼らのキャリアにとって有利であると考えていると述べられる。彼らは親日的なポーズを取りながらも、日本の核抑止力保有を阻止し、米国製兵器を大量に購入させることで米国の軍事産業を潤す仕組みを維持しようとしていると指摘された。
日本に「圧倒的に欠けているのはモラル」であり、この喪失は明治維新以降の日本の教育改革、特に仏教思想・儒教思想・日本的価値観(武士道、天皇、万葉など)の「トリニティ」が失われたことにあると分析する。これにより、物質的な進歩はあったものの、道徳的価値判断能力や哲学的思考能力が衰退し、「浅くて単純」な思考に陥っていると指摘された。
日本が独立国として存立していくためには、インドのように「独立主義と中立主義」を貫き、複数の国から兵器を調達することで自国の交渉力を高めるべきだと提言する。根本的な精神性の回復が不可欠だという。江戸時代まで子供たちに教えられてきたような「基礎的な素養」や「精神性」、「哲学」といった「私たち自身のモラル」を取り戻す必要があると強調する。現在の「現状維持に走っている」状況では、日本は存立できなくなると結論付けた。
現在の国際情勢が多極化の時代へと向かい、特にアジアにおける米中露印の力学が変化していく中で、日本が米国への従属を続けることの危険性を伊藤氏は強く訴える。米国がもはや日本を完全に守り切れる保証はなく、日本自身が「中国の属国となるか、自立するか」という二者択一を迫られているという厳しい現実を突きつけている。その上で、日本が自立するためには、国家戦略の構築、特に精神性やモラルの回復といった内面的な変革が不可欠であると強調された。果たして、日本はこの危機的状況を乗り越え、真の独立国家としての道を歩むことができるだろうか。
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