政治ジャーナリストの鮫島浩氏が、自民党内で加速する「石破おろし」の現状と、その背後にある旧安倍派との因縁の対決について解説する。自民党内で「石破おろし」が加速しており、「退陣は避けられない情勢」である。一方、野党支持者からは「まさかの『石破やめるなコール』」が起きており、これはこの自民党内政局が「石破・旧安倍の因縁の対決」だからに他ならない。鮫島氏は「退陣表明はズバリ8月末」と予測しており、その後の総裁選、そして内閣総辞職まで、石破政権の「怨念の最終章」が続いているという。
影の総理・森山幹事長の動き
森山幹事長は、石破首相が続投を宣言した自民党両院議員懇談会の後、参院選総括委員会の発足を表明し、「中旬に結論を得る」と述べたうえで、幹事長を辞任する意向を示唆した。石破首相が少数与党国会を乗り切ってこられたのは、野党に幅広い人脈を持つ森山幹事長のおかげであり、彼が辞任すれば「沈みゆく石破政権の幹事長を引き受ける有力者は党内に見当たらなく」なる。
森山幹事長がこうした動きを見せたのは、自らが幹事長を辞任する意向を示すことで、石破首相も8月中には退陣表明する流れを作り、「党内の『石破おろし』を鎮静化させること」を狙ったからだ。彼は事前に、石破首相に退陣を要求した麻生元総理と岸田前総理と面会し、自身の幹事長辞任意向と、石破首相が8月末に退陣表明するシナリオを内々に伝えていた。これにより、「これ以上石破おろしが広がらないように協力」を要請したのだ。
森山氏は「9月に総裁選を前倒し実施する」という党則を参院選総括に盛り込み、石破首相がそれに合わせて辞任を表明するという「ソフトランディングのシナリオ」を描いている。麻生氏や岸田氏が事態を静観しているのは、森山幹事長の根回しが「一定の効果を生んでい」るためだ。
80年談話をめぐる攻防
しかし、この流れに「収まらないのが旧安倍派」だ。裏金事件で失脚した旧安倍派の「5人衆」のうち、選挙を勝ち上がった萩生田氏、西村氏、松野氏、世耕氏の4人は、参院選惨敗後の7月23日に集まり、「石破退陣すべし」との考えで一致した。世耕氏は会合の内容をテレビで暴露し、ポスト石破候補として高市早苗氏らの名前を挙げたが、これに対し野党は「お前たちが言うな」と反発し、「『石破やめるなコール』が一層強まった」という。
安倍氏と石破氏はもともと犬猿の仲であり、2012年に安倍氏が総裁に復帰してからも、石破氏は冷遇され続けた。石破氏にとって、今回の政権誕生は「この旧安倍派が裏金事件で壊滅し」た結果であり、まさに「因縁の関係」だ。
この夏、石破首相は「戦後80年」という節目に「80年談話」を発表する意欲を公言している。これは、10年前に「謝罪外交に終止符を打つ」ことを目指した安倍氏の「70年談話をひっくり返されること」を恐れる旧安倍派にとって、絶対に阻止したいことである。旧安倍派は「石破に安倍政権のレガシーを潰されてたまるものか」との思いから、お盆前の退陣表明に追い込み、80年談話を阻止しようと躍起になっている。一方の石破首相も、「最後の最後に一矢報いるつもり」でいるようだ。
しかし、鮫島氏は「この自民党内政局は、去りゆく石破と地に落ちた旧安倍派のコップの中の争い」に過ぎないと指摘する。政局の本流は「石破退陣表明後の9月の自民党総裁選、そして新総裁のもとでどの野党と組むのか」に移っているのだ。
政界再編へ
8月8日の両院議員総会を経て、森山幹事長は旧安倍派の追撃をかわし、「8月末まで退陣表明を引き延ばす」という石破首相の意向に沿った調整を進めている。政治ジャーナリストの視点からすれば、石破・旧安倍派の攻防は「確かに政治ドラマとしては面白い」が、「すでに政局の焦点はその先に移って」いる。この「目先の政治ドラマに目を奪われたら」、その後に起こる「与野党を巻き込んだ政界再編の動きに乗り遅れること」になる。
このコップの中の争いは、はたして政局の本流にどのような影響を及ぼすのだろうか――
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