日本の外国人材受け入れ:法務大臣が語る「秩序ある共生社会」と課題

国内政治

少子高齢化と人口減少が加速する日本において、外国人材の受け入れは喫緊の課題として認識されている。鈴木馨祐法相は「今後の外国人受け入れのあり方について」と題した会見で、その現状と今後の方向性について語った。鈴木馨祐法相は「今後の外国人受け入れのあり方について」と題した会見で、少子高齢化と人口減少が進む日本における外国人材受け入れの喫緊の課題と見直しについて言及した。国内での問題顕在化や国際情勢を踏まえ、国民の理解と支持を得ながら「活力ある強い日本の実現」と「国民の理解と支持」の両立を目指す「外国人との秩序ある共生社会」の構築を訴えた。

政策見直しの背景:国民の「安全・安心」と「公平感」

鈴木法相は、外国人政策の見直しを進める背景として、複数の課題を挙げた。2023年頃から埼玉県川口市で病院周辺での騒動が指摘されるなど、国内で外国人を巡る問題が「顕在化」したことを指摘。また、2015年頃からドイツを中心とした欧州諸国やOECD諸国で外国人問題、特に難民・移民を巡る政策が「大きなイシューとなり、社会の分断や政治の混乱の要因となってきた」と述べ、日本も同様の状況になる可能性を認識しているとした。

外国人に関する問題は「非常に感情的な側面を持つことが多く」、政策を進める上では「国民の理解と納得を得るために丁寧な取り組みが不可欠である」と強調した。直近の参議院選挙でも外国人に関する政策や論争が大きく取り上げられ、インターネット上では「真偽不明な情報が国民の不安を高める状況も見られた」ことから、政府は「国民の安全・安心を確保するために、何が起こっているのか、何が起こり得るのか、どのような対策ができるのかを積極的に国民と共有すべきである」と訴えた。

政府の基本的な考え方として、今後の外国人受け入れは、以下の二つの目標を両立させる必要があると強調された。一つは、少子高齢化や人口減少を考慮した「活力ある強い日本の実現」。もう一つは、この目標の実現には「国民の理解と支持が大前提」となることだ。他国の事例に見られるような社会の分断を避けるため、「国民の安全・安心、公平感を確保すること」が極めて重要だとし、「国民に不安や不公平感を与えれば、支持は得られない」との認識を示した。この両立を目指すコンセプトが「外国人との秩序ある共生社会」であるという。

外国人材受け入れの現状と加速する人口増加予測

日本は既にサービス業や宿泊飲食サービス業などにおいて、外国人労働力に依存している状況にあり、特に地方部ではその依存度が高いと指摘された。人口減少下における労働力確保に加え、外国出身者のイノベーション力やアントレプレナーシップが日本経済に付加価値をもたらす可能性も強調されている。

現在の日本に滞在する長期滞在外国人の割合は約2.7%。政府の推計では2070年にはその比率が10.8%を超える可能性が示されていたが、最近のデータ(出生数の予測以上の減少、過去3年間で外国人増加が年30万人台)を踏まえると、「2040年頃には10%を超え、2045年には外国人人口が1000万人を超える可能性も想定しておく必要がある」と述べられた。これは当初の予測よりも「30年程度前倒しされる可能性」があるという。

全国平均が2.7%であっても、既に10%を超える外国人が住む市町村は多く、大都市圏、工業地域、観光地域、農村地域など場所を問わない広がりを見せている。これが全国で10%を超えれば、地域によっては30%を超える場所も増えることが想定される。現在の在留資格別では、技能実習生が12.1%、技術・人文知識・国際業務が11%、特定技能が7.5%、留学が10%強を占めている。

しかし、日本はOECD諸国と比較して高度外国人材に選ばれておらず(0.8%)、特定技能の受け入れも目標を下回っている現状だ。円安の進行は日本の魅力をさらに低下させる可能性があり、人材確保のための政策的検討が急務であるとした。

外国人増加による課題とリスクへの対応

外国人増加による課題として、治安と摩擦が挙げられた。軽犯罪検挙数に占める外国人の割合は増加傾向にあるものの、在留外国人の増加を考慮すると、必ずしも日本人より犯罪を多く起こしているとは言えないとされた。しかし、特定の地域においては「摩擦が生じている事例も事実として存在し」、川口市での騒動がその例として挙げられている。

ドイツの事例を挙げ、外国人問題が「社会の分断や政治の混乱につながりかねないリスク」が指摘された。経済的に厳しい旧東ドイツ地域などで、移民排斥を掲げる政党が支持を得やすい傾向が見られるという。

国民の安全・安心を確保し、理解を得るための具体的施策として、鈴木大臣は以下の取り組みを進めていると説明した。

  • 「不法滞在者ゼロプラン」の公表と実施(5月23日):
    • J-ESTA(電子渡航認証システム)の2028年度中の導入」により、ビザ免除国からの短期滞在者が事実上の就労目的で不法滞在に移行するケースへの対策を図る。
    • 不法滞在者の多い国への働きかけ」として、退去強制が確定した外国人送還への協力要請など、各国との連携を強化する。
    • 難民認定審査の迅速化」を進め、保護すべき難民は確実に保護し、そうでない者には適切な対応を行う。
  • 就労可能在留資格の適正化: 産業や国民生活への影響を考慮し、上陸許可基準や審査方法の見直しを進める。
  • 「外国人との秩序ある共生社会推進室」の設置(7月):
    • 省庁横断的な対応を可能にするための新たな組織だ。
    • 当面の検討項目には、国土の適切な利用および管理(安全保障上の懸念を含む)、在留資格変更手続き、社会保障制度の適正化、観光短期滞在者への対応強化などが含まれる。

「不法滞在」という用語について、大臣は法令に基づき執行している立場から、「法令を守らない外国人に対しては退去を促す」として、現時点での用語変更は考えていないと述べた。ただし、「適法に滞在する外国人への差別はあってはならない」と強調した。

今後の展望と課題:司令塔機能の強化と「許容性」の議論

今後の展望として、終身雇用を中心とした従来の日本型雇用モデルが変化せざるを得ない中で、どのように「社会統合モデルを構築していくか」が極めて重要だと認識されている。外国人の受け入れの必要性と、社会における「許容性」をどう考えるか、将来像を示すための量的マネジメントの検討も必要であるとした。

外国人政策を扱う司令塔組織の設置の必要性に関する議論に対し、大臣は、組織そのものよりも省庁間の「縦割りを解消し、透明な課題に対応すること」、そして「根本的な検討を進めるための政府全体の対応が必要である」との認識を示した。これらの取り組みを通じて、国民の安全・安心を確保しつつ、「自由で開かれた日本」を実現し、「活力ある強い日本を創っていく」考えを改めて示した。

少子高齢化と人口減少という喫緊の課題に直面する日本において、外国人材の受け入れは不可避の選択肢だ。しかし、その受け入れは「国民の理解と支持」なくしては成り立たない。鈴木馨祐法相が提示した「外国人との秩序ある共生社会」は、はたして国民の不安を払拭し、日本の未来を拓く道筋となるだろうか――。今後、政府がどのように国民との対話を進め、実効性のある政策を打ち出していくのか、その動向が注目される。

日本の外国人材受け入れ:法務大臣が語る「秩序ある共生社会」と課題

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