ジャーナリスト及川幸久氏が、イーロン・マスク氏の新党「アメリカ党」結成の背景と目的、そしてその背後にあるピーター・ティール氏の影響について詳しく解説。国家債務問題と既存二大政党への不満が新党結成の動機であり、トランプ陣営との複雑な関係性にも触れる。
イーロン・マスク、新党「アメリカ党」を結成した理由
ジャーナリストの及川幸久氏によると、多忙な企業経営者であるイーロン・マスク氏が政治活動に回帰し、新党「アメリカ党」を結成した背景には、深刻化するアメリカの国家債務と、機能不全に陥った既存の二大政党への強い不満があるという。
及川氏は、マスク氏が最も懸念しているのは、1980年代から増加し続けるアメリカの国家債務であると指摘。「国債残高が36兆あるんですよね。」と述べ、国家債務が36兆ドルに達している現状に警鐘を鳴らす。債務上限(デッドシーリング)が設けられているにもかかわらず、「実際シーリングが合ってないんです」と、上限が形骸化していることを批判している。
国家債務の利払い費は、国防総省の年間予算を上回る1.2兆ドルにも達しているという。及川氏は、「国債の利払いは国防総省の1.2兆ドルぐらいなんですよ。」と語り、税収の35%が過去の国債の利払いに充てられている現状を憂慮。マスク氏が「支出を削減しなければならない」という考えに至ったのも当然だ。
既存二大政党への不信感と「一党独裁」国家への警鐘
及川氏によれば、マスク氏は共和党も民主党も「一緒だ」と批判している。共和党は「歳出を削減して小さな政府とそれからアメリカファーストを歌っている、しかし予算の膨張を繰り返し続けている。」と、公約と実行の乖離を指摘。特にトランプ第2政権下で成立した減税法案を含む「ワンビッグビューティフルビル(BBB)」を見て、マスク氏が「これはダメだと」判断したという。
民主党に対しては、「もっとひどい。本来だったら労働者のための優しい政党だったのが労働者階級を圧迫する経済政策をやっている」と手厳しい。
さらにマスク氏は、アメリカはもはや二大政党制ではなく、「我々はもはや民主主義ではなく一党独裁の国に生きている」とまで指摘し、「ユニパーティー」という言葉で表現しているという。
「アメリカ党」の目的について、及川氏は「アメリカ党は皆さんの自由を取り戻すために結成されました」というマスク氏の宣言を引用し、ワシントンのためではなく「人々のため、国民のために戦う新しい運動」として、無駄遣いや汚職によって国を破産させる現状に終止符を打つことを目指していると説明する。
「影の大統領」ピーター・ティールと「PayPalマフィア」の影響
イーロン・マスク氏の背後には、元PayPalのCEOであり「トランプを操っている」「影の大統領」とも称されるピーター・ティール氏の存在があると、及川氏は語る。ティール氏はマスク氏と共にPayPalを創設した一人であり、彼ら成功した投資家グループは「PayPalマフィア」と呼ばれている。
彼らの共通点は「リバタリアン」思想であると及川氏は指摘する。「個人の自由を絶対的に重視する」この思想は、民主党でも共和党でもない、既存の枠組みに囚われないものだ。及川氏によれば、ピーター・ティールは「トランプとイーロンを結びつけた」人物であり、表面上はトランプとマスクが「決裂したように見える」が、ティール氏が両者に関わっているため、マスク氏の新党もティール氏が「応援する」可能性が高いと推測している。
トランプ陣営とイーロン・マスクの関係性の複雑さ
イーロン・マスク氏の新党結成は、トランプ陣営との関係性において複雑な側面を持つと及川氏は分析する。最近発表されたトランプ・モバイルは、イーロン・マスク氏のSpaceXが運営するスターリンクの通信を利用するとされており、「トランプのプライベートカンパニー(トランプオーガナイゼーション)はイーロンの会社とビジネスやってるわけです。」と、両者のビジネス上の協力関係を指摘する。
一方で、トランプ氏は「そもそもアメリカの政治システムっていうのは特別で、第三党が成功するように構築されてはいない」と強調しており、既存の二大政党制の構造が第三党の台頭を許さないと認識している。トランプ氏は、ワシントンの「沼地」を変える現実的な道は「既存の2大生等の一つを乗っ取ってその政策を内部から改革する」ことだと考えており、自身も共和党を「器として利用し」、その中身を「MAGA運動」という実質的な新党に変革してきたと及川氏は解釈する。「トランプこそ共和党っていう名前は変わってないけど新党を作ったみたいなもんなんです」と述べ、オバマ氏も同様の手法で民主党を内部から変革したと指摘している。
イーロン・マスク氏は、既存の二大政党システムの外で活動することで政治を変革できると信じており、トランプ氏とは異なるアプローチをとっている。この第三党結成の動きが、結果的に「民主党を喜ばせる」ことになる可能性も指摘されている。
イーロン・マスク氏の新党「アメリカ党」の結成は、アメリカの国家債務問題と既存政党への不満が背景にある。ピーター・ティール氏のリバタリアン思想の影響を受けながら、トランプ陣営とは複雑な関係性を持つ。この第三党の動きが、分断が深まるアメリカ政治にどのような影響を与えるのか。既存政党の変革、そして新党の台頭が、アメリカの未来をどう形作るのか、今後の動向に注目が集まるだろう。
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