同志社大学教授の吉田徹氏が、2025年参議院選挙で躍進した参政党と日本保守党を事例に、日本で新たな保守政党が支持される背景を分析した。吉田氏は、現役世代の経済的困窮、自民党の中道化による「岩盤保守層」の剥離、そして無党派層の投票行動の3つを主な要因として挙げ、「外国人問題」が有権者に与える影響について深掘りしている。
新たな保守政党躍進の3つの要因
2025年参議院選挙で、参政党や日本保守党といった新たな保守政党が議席を獲得し、注目を集めた。同志社大学教授の吉田徹氏は、なぜ今、日本で新たな保守政党が支持されるのか、その背景にある主要な要因を3つ指摘する。
第一に、吉田氏は現役世代の経済的困窮を挙げる。「日本人どんどん貧しくなってるという状況があって、その中でも極めて負担感が強いのが現役世代。故えに参政党支持ということがあったんだと思います」。実質賃金の低下が続く中で、経済的な不安を抱える現役世代が、現状を打破する分かりやすい説明を求めた結果、参政党の「日本人ファースト」というスローガンが、複雑な問題を「外国人問題」として単純化し、共感を呼んだのだ。
第二の要因は、自民党の中道化と「岩盤保守層」の剥離だ。「安倍政権以降自民党が中道化してきた。自民党に不満を持っていて、代わりに投票する先を探していた。で、そこに参政党がうまくフィットした」。第二次安倍政権下で右傾化した自民党は、菅・岸田・石破政権へと移行するにつれて中道化が進んだ。これにより、これまで自民党を熱心に支持してきた「岩盤保守層」(特に改憲や対中強硬姿勢などを求める層)が、自民党に不満を抱き、新たな受け皿を求めていた。参政党は、こうした層の「右の右」に位置することで支持を獲得したのだ。
第三に、吉田氏は無党派層の投票行動に着目する。「日本の有権者の特徴って非常に無党派が多いっていう特徴があるわけですね。しかもその割合がどんどん増えてる。無党派層ってそれにすごく期待をするんですね」。無党派層は、既成政党への不満から「第三の選択肢」を求める傾向がある。勢いのある新党に対して「勝ち馬効果」的に支持が集まりやすく、参政党がこの層の票を効果的に取り込んだのだ。
「外国人問題」が有権者に与える作用
「外国人問題」は、一言で語っても有権者によって異なる意味合いを持つと吉田氏は指摘する。「日本で暮らしてると何らかの形で外国人問題を経験してるわけですね。で、それをまとめて外国人問題。日本人ファーストって言うと皆どっかしら響くものがある」。
オーバーツーリズム、中国資本による土地買収、産業空洞化、特定の外国籍による犯罪など、具体的な不満や不安が「外国人問題」として一括りにされ、「日本人ファースト」というナショナルアイデンティティに訴えかけるスローガンが、多様な層の共感を呼んだのだ。この「ライトな外国人嫌悪」は、欧米のような排他的な移民社会ではない日本において、多くの有権者に「響く」メッセージとなったという。
参政党と日本保守党の違い
両党は共に新たな保守政党として議席を獲得したが、その性質には明確な違いがあると吉田氏は分析する。
参政党は「政治的柔軟性・選挙市場主義的」な特徴を持つ。結党当初の反ワクチン・オーガニックといった主張から、現在は「外国人問題」を前面に打ち出すなど、時々の政治状況に応じて主張や立ち位置を戦略的に変える傾向がある。また、「極めて組織化が進んでる。党員っていうのは6万人ぐらい全国に、北海道から沖縄まで全部の選挙区に候補者を立ててるわけですね。現場で働くのは地方議員の人たちですから、そういった兵隊たちががいっぱいいるっていうことなんですね」。全国的な組織網と多くの党員・地方議員を擁し、草の根レベルでの活発な活動(アウトリーチ)が可能である。党員は党の意思決定に参加できる仕組みも持ち、政治参加への敷居を下げている。「サークル的なノリ」で、これまで政治に関心がなかった層も巻き込み、活動の楽しさを提供しているのだ。
一方、日本保守党は「イデオロギーの堅固さ」が特徴だ。「日本保守党を結党した人々、あるいはそのサポーターっていうのは安倍自民党を熱心に支持示してた人たち。改憲であるとか、あるいは伝統的な日本のあり方っていうのを全面に掲げているかなりイデオロギー色の強い政党だ」。安倍自民党の熱心な支持層を基盤とし、改憲や伝統的な日本の価値観など、明確な保守イデオロギーを強く掲げるため、参政党と比較して主張にブレが少ない。ただし、参政党のような全国的な組織力は現時点では持っていない。
吉田氏は、参政党のような新たな保守政党と欧米の右派ポピュリズム政党の共通点として、保護主義的・市場介入的な経済政策、共同体を重視する文化軸、そして既存エリートに対する「反エリート」姿勢を挙げる。
欧米の右派ポピュリズム政党との比較と今後の展望
相違点としては、日本の「外国人問題」が、欧米のそれと比較して「比較的ライトな外国人嫌悪」である点を指摘する。欧米では移民社会の進展に伴い、よりハードな外国人排斥主義やヘイトクライムが存在するが、日本ではまだその段階には至っていない。これは、日本の人口における外国人の割合がまだ3%程度と低いことにも起因する。
今後の展望として、参政党の躍進により、「外国人問題」が日本の政治における重要な争点となることは明らかだ。今後、他の政党もこの論点を取り込み、票獲得に繋げようとする可能性が高い。参政党は選挙市場主義的な特性を持つため、今後も政治状況に応じて主張を変え、中道化する可能性も十分にあると吉田氏は見る。しかし、「外国人排斥」のような「価値の問題」においては、より強硬な主張をする政党が支持を集める傾向があるため、さらに急進的な主張をしていく可能性も否定できない。結果として、参政党のような政党が強硬な主張を続け、他の政党がそれに追随するようになれば、社会全体が「外国人問題」に対して右傾化していく可能性もあるだろう。
参政党と日本保守党の台頭は、経済的困窮、既存政治への不満、そして「外国人問題」という複雑な要素が絡み合って生まれた現象だ。特に参政党は、その柔軟な戦略と強固な組織力によって、無党派層や政治に無関心だった層まで取り込み、日本の政治地図に新たな動きをもたらした。今後、この「外国人問題」がどのように政治的争点化し、日本の社会に影響を与えていくか、注目される。
コメント