株式会社山猫総合研究所代表の三浦瑠麗が、今回の参議院選挙結果を単なる与党敗北としてではなく、日本政治の構造的な問題と関連付けて分析する。特に、争点の欠如、政党間の競争不在、そして長期政権による与党の自己目的化を問題視し、今後の日本政治のあり方に警鐘を鳴らす。
日本に押し寄せるポピュリズムの波
2025年参議院選挙における与党の大敗は、日本政治に大きな波紋を広げている。株式会社山猫総合研究所代表の三浦瑠麗氏は、この結果を単なる一時的な現象と捉えず、日本政治の構造的な問題に深く根差していると分析する。
今回の与党大敗を受けて、海外ジャーナリストからは「日本にもついにポピュリストの波が来た」という見出しが踊っているという。三浦氏は、海外(特に欧米)からは「日本は外国人居住者・労働者の比率が非常に低い」「これまで安定したG7の例外的な国と見なされてきた」中で、なぜこのようなポピュリズムの波が来たのかという疑問が提示されていると語る。欧州が移民政策で経験した分断を背景に、日本の状況は理解されにくいのだ。
「ウェッジ」なき選挙が招いた政党競争の不在
三浦氏は今回の選挙を「ウェッジなき選挙」と総括する。個別の争点はあったものの、国を分断するような大きな論点が提示されなかったと指摘する。特に自民党から、国を割るような論点が全く提出されなかったことを問題視。「分断は良くない」という意見もあるが、政治的競争のためには「ウェッジ」が必要不可欠だと三浦氏は主張する。
健全な民主国家においては、政策や価値観・イデオロギーを巡る争点によって国民が分断され、それぞれの政党を支持することで競争が生まれるべきだと三浦氏は考える。しかし、今回の選挙では自民党、石破政権のどちらからもウェッジが提示されなかった。小泉進次郎氏の備蓄米放出方法の改善のような「単なる政策の方法論」はウェッジにはなりえないと批判する。自民党は「選挙のやり方」や「知見」を失ってしまったと三浦氏は厳しい見方を示した。
議員内閣制の弊害と「宮廷政治」化
日本の議員内閣制の特性が、政治家の「リアクティブ(反応的)」な行動様式を助長していると三浦氏は指摘する。首相に就任すると、日々降りかかる難題に対処するだけで手一杯になり、国民の存在が頭から抜け落ち、「世論調査」や「メディアの反応」を見て、それに対応する形でしか政策を動かせないのだ。
長期にわたる自民党政権(特に安倍長期政権)は、与野党の定期的な交代がなかったため、政治家は党内での出世をゴールとする「党内」志向に陥りやすい。派閥が解体されたことで、かつての派閥が担っていた「意見集約機能」や「権力闘争の効率化機能」が失われ、各議員が「砂のよう」に個別発言をする状態になっていると三浦氏は批判する。結果として、政策論争ではなく、個々の政治家に対する不満や批判が横行し、健全な議論が失われていることを問題視している。これは「宮廷政治」に似ており、権力者に気に入られようと競争するだけの状態だと三浦氏は警鐘を鳴らす。
日本政治の構造変動と政党の課題
日本政治の構造変動は、外的要因だけでは説明できないと三浦氏は主張する。これまで日本において第一義的な意味をなしていた「憲法と安全保障を巡る対立軸」は、主に70代以上の有権者が重視していたものであり、世代交代によりその重要性が薄れてきている。
若い世代の票を取り込む必要性を認識しながらも、多くの政党が「迷子」の状態にあると三浦氏は語る。国民民主党は「経済的に大盤振る舞いをする」という形で若年層の支持を獲得しつつあり、今後も一定の票を得るだろうと分析する。
立憲民主党は、いまだに高齢者層に支持が偏っており、このままでは国民民主党への議員の移籍や、最終的な野党第一党としての地位の収斂が起こる可能性を三浦氏は指摘する。参政党の躍進、維新の大阪基盤の確立、れいわ新選組の経済的バラマキ政策による支持層獲得など、野党の多様化と分散が進んでいるのだ。
現状の多党制では、連立政権を組むことが困難であり、「脆弱な政権ができては解散を繰り返す」事態を三浦氏は懸念する。特定の政党に対する「忠誠」を国民が高められるような、分かりやすい「価値観のパッケージ化」が必要であると三浦氏は提言する。ドイツのAFD(極右政党)のように、有力な政党であっても他党が連立を組まないことで政権外に押し出される例を挙げ、日本の現状の多党化の難しさを指摘した。
政党への提言
各政党は「我々の支持層とは何か」を改めて調査研究し、顧客(有権者)を理解した上で、自分たちの「コアバリュー(核となる価値観)」を明確にし、運動体を再構築する必要があると三浦氏は強調する。自民党は「ずっと与党だったからみんな与党を選ぶだろう」というトロイの木馬的な意識から脱却し、下野しても大丈夫な状況を構築する必要がある。
国民民主党と立憲民主党には、お互いに歩み寄ることを期待する。維新は、関西圏での棲み分けは可能だが、関東圏での勢力拡大は難しいと三浦氏は分析している。
日本政治が現在直面している問題の根源は、主要政党、特に与党自民党における「争点設定能力の欠如」と「有権者目線の喪失」にある。長期政権による内向き志向と派閥解体後の意見集約機能不全が、この問題に拍車をかけているのだ。健全な民主主義国家として機能するためには、各政党が自己を見つめ直し、明確な「ウェッジ」を提示し、国民と再接続することで、有権者が選択しやすい競争的な政治構造を再構築することが急務だろう。
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