前駐オーストラリア大使の山上信吾氏が、ジャーナリストの近藤大介氏との対談で、日本の対中外交が抱える構造的な問題点と、その改善に向けた具体的な提言を語る。「足して2で割る」外交の限界、外務省と政治家の質の低下、そして中国の「戦狼外交」に対し、日本がどう国益を守るべきか。その「真実」に迫る。
「足して2で割る」外交はもう通用しない
日本の外務省は長年、相手国の主張も考慮し、妥協点を探る「足して2で割る」外交を続けてきた。しかし、山上氏はその限界を強く指摘する。「やっぱり譲れない問題ってあるわけです。主権の問題もそうだし領土の問題もそう」と述べ、主権や領土、歴史認識といった「譲れない問題」において、安易な妥協は国益を著しく損なうと警鐘を鳴らす。
特に中国が「戦狼外交」を展開する中で、日本も「戦う外交」をすべきだと山上氏は主張する。「日本の国益を守っていくっていうことなんでね。やっぱり言うべき時に言わないとやっぱり相手にされなくなるわけですよね」と強調し、毅然とした対応が不可欠だという。
具体的な「媚中」外交の事例として、山上氏は2022年8月の中国ミサイル着弾への対応を挙げる。ペロシ米下院議長の台湾訪問後、中国が日本の排他的経済水域(EEZ)にミサイルを撃ち込んだ際、当時の林芳正外務大臣が中国大使を呼びつけて直接抗議せず、事務次官に任せ、さらに事務次官も電話で済ませたことを山上氏は厳しく批判する。「中国がやったのは初めてで、あれはもう2度とやるんじゃないって猛烈に抗議しなきゃいけない」と述べ、外交の基本ができていないと指摘する。
また、福島第一原発の処理水放出に対し、中国が日本産水産物の全面禁輸を行った際も、中国大使を呼びつけなかったことを問題視した。さらに、安国神社への乱暴狼藉や、中国人による邦人殺害事件においても、「遺憾」の表明に留まり、中国大使を呼びつけるなどの毅然とした対応が取られなかったことを挙げ、「ここ数年の対中外交はおかしいんです」と結論づける。
山上氏は、「中国からすると日本ってこういう国なんだと思いもっと攻めてきますよね」「やっぱり足元見てくるわけですよね。日本はここまでやっても大丈夫なんだとなっちゃう」と語り、毅然とした対応ができないことによる中国側の増長を強く懸念する。
外務省と政治家の劣化が日本の外交を蝕む
日本の外交力が低下している背景には、外務省の官僚と政治家双方の劣化があると山上氏は指摘する。
外務省の官僚については、「政治家のポチ」と化している現状があるという。かつては優秀な人材が集まっていた外務省だが、内閣人事局による人事が導入されて以降、「官邸側が拒否権を持つわけですね」と述べ、政治家、特に官邸に嫌われれば出世できないシステムが定着していると批判する。
これにより、官僚は「政治に嫌われると出世できない」という内向き志向になり、「実力主義で偉くなるというよりも政治家との関係で偉くなる」と指摘し、本来の外交官としての能力よりも、政治家との関係性が重視される風潮を批判する。優秀な人材ほど、現状に失望して外務省を辞めていく傾向にあることも言及された。
政治家の質の低下も深刻だ。「政治家も劣化してることはもう間違いない」と断言し、世襲政治家の増加がその一因であると指摘する。かつての政治家には、戦争を知る経験や、自らの努力で身を立てた者、「剃刀のように切れる」インテリが多くいたと回顧する。
しかし、現在は「なんとなく大学出て、それで親父の秘書かなんか、それで政治の勉強して政治家になったみたいないタイプが増えてきて」おり、帝王学を身につけていない者が多いと批判する。具体的な例として、石破茂氏や小泉進次郎氏を挙げ、石破氏については「なんで慶応大学で学びながら英語でコミュニケーション取れないのか」「なんでそういう立ち振る舞いになるのか。握り飯ぐらい綺麗に食えよ」と、国際的な舞台での振る舞いや基本的な教養の欠如を厳しく指摘した。
「戦う外交」への転換と国民の意識改革
日本が直面する外交問題の改善に向け、山上氏はいくつかの提言を行う。
まず、国益を守るためには、中国の「戦狼外交」に対し、日本も毅然とした態度で臨むべきだという。「戦う外交」への転換が必要であり、言うべきことを明確に主張し、相手に足元を見られない外交が必要だと語る。
次に、外交官の専門性・独立性の尊重を挙げる。官僚人事において、政治との関係性よりも、外交官としての専門知識や分析能力、交渉力といった「実力主義」を重視するシステムに戻すべきだと主張する。
さらに、政治家の質の向上も不可欠だ。世襲に頼らない、多様な経験を持つ人材が政治の道に進むべきだとし、国際社会で通用する教養やマナー、戦略的思考を身につけるための「帝王学」を政治家が学ぶことの重要性を示唆する。
日本の対中外交は、過度な妥協志向と、外務省および政治家の質の低下という構造的な問題に直面している。中国の強硬な外交姿勢に対し、日本が国益を守り、国際社会における存在感を維持するためには、これらの問題に正面から向き合い、毅然とした「戦う外交」へと転換することが急務だ。そのためには、官僚機構の健全化と、国民の期待に応え得る政治家の育成が不可欠だ。はたして、日本は「媚中」外交の呪縛から解き放たれ、真の国益を守る外交を展開できるだろうか。
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