政治ジャーナリストの鮫島浩氏が自身のYouTubeチャンネル「SAMEJIMA TIMES」で、参議院選挙の主役に躍り出た参政党の「日本人ファースト」というスローガンと、その背景にある「反グローバリズム」の世界的潮流について解説した。鮫島氏は、既存政党やマスコミが無視してきた「急増する移民に不安と不満を募らせる国民の声」を参政党が掬い上げたことで、「日本初の反グローバリズム政党の誕生」と言える躍進を遂げたと分析する。
移民問題を巡るタブーと「日本人ファースト」の衝撃
鮫島氏は、日本のマスコミが移民問題を「もっぱら人権問題として報道してきた」と指摘する。例えば、入管施設でスリランカ人女性が適切な医療を受けられずに亡くなった事件はその代表例であると述べた。また、「生活保護や学生支援で外国人が優遇されている」という情報が飛び交い、「ヘイトスピーチを煽っている」と指摘する報道もあったと語る。これらから、マスコミにとって「日本人ファーストのスローガンは排外主義を煽るとんでもワード」に映るという。
一方で、マスコミがほとんど報じてこなかったのが、移民を巡る「経済問題」だと鮫島氏は強調する。大企業は「安い労働力を確保するため移民政策を後押ししてきました」と述べ、この結果、「日本人の労働者の賃金水準は移民に引きずられてなかなか上がってこなかった」という現実があったと指摘する。大企業が「人件費削減に成功して大きな利益を得る一方、経済格差は拡大」した結果、「移民の安い労働力が日本人労働者の賃金水準を押し下げ、彼らの生活を苦しめてきたのは紛れもない事実」だと断言する。
鮫島氏は、このような格差問題が移民急増に対する不安や不満の背景にあることを、日本の政治やマスコミは「スルーしてきた」と批判する。つまり、「移民を安い労働力として求める経済界と移民の人権を重視するリベラル派が手を結び、共に移民政策を推進してきた」結果、大衆の不安や不満が「抑え込まれてきた」のだという。
地方の人々が「自分の生活圏に移民が急増したことに不安を覚える」一方で、「東京のタワーマンションで安心して暮らす大企業やマスコミの社員たちに一体何が分かるのか」という「怒りを溜め込んできた」と、国民の不満の根源を分析した。そこへ「日本人ファーストを前面に掲げる参政党が登場」したことで、「移民政策に反発する大衆のマグマが一挙に吹き出した」ことが、今回の参議院選挙における「参政党旋風の正体」だと解説した。
欧米社会との共通点──反グローバリズムの世界的潮流
この構図は「一足先に移民が社会問題化した欧米社会と瓜二つ」だと鮫島氏は指摘する。ヨーロッパ諸国では「移民反対を訴える新興勢力が台頭」し、これら新興勢力を、政権を担ってきた中道右派と中道左派の政党が「極右政党として切り捨て、封じ込める対抗手段に出た」という。中道右派は「安い労働力を求める経済界の意向に従って」、中道左派は「リベラル派の人権重視の声に耳を傾けて」、「共に新興勢力を排外主義として切り捨てた」構図があったと説明した。
アメリカではトランプ氏が、「移民政策を進めてきた共和党、民主党の二大政党を攻撃し、大衆の支持を引き寄せました」と述べ、最終的に共和党を乗っ取り、民主党政権を倒して大統領に就任した事例を挙げた。経済界やマスコミはトランプ氏に対抗して民主党を支持したが、「敗れました」と語る。欧米の分断社会の背景には、「グローバル化を支持する経済界やマスコミと格差拡大に反発してグローバル化に反対する大衆の対立」という構図があると分析する。
そして、その反グローバリズムの具体的要素として、増える移民への不安、移民の安い労働力に引きずられて自分の賃金が上がらないことに対する不満、外国資本による株や土地の買い占め、グローバル企業による環境破壊、海外から大量に流入する農薬や遺伝子組み換え作物、そして食品添加物への反発を挙げ、「反グローバリズムは今や世界的な潮流」だと強調した。
日本の既存政党と参政党──唯一の「反グローバリズム」政党の躍進
では日本はどうか。鮫島氏は「自民党と立憲民主党の二大政党は共に移民政策を推進してきました」と指摘する。自民党は「何と言っても経済界の味方」であり、とりわけ「医療、農業、教育など幅広い分野で世界経済を支配するグローバル企業の味方」だと述べた。自民党を支持する一部保守層には移民政策に反発する声もあるが、「自民党の本質はやはり大企業の代弁者」であり、結局は「安い労働力の確保を目指して移民政策を推進する」経済界の要望を受け入れ、「規制を緩和してきた」と解説する。表向きは「移民への不安に同調するふりをして、裏では経済界と手を握る」のが自民党の「実態」だと語った。
一方、立憲民主党は「リベラル派が重視する人権の立場から移民政策を推進してきました」と分析する。移民受け入れによる賃金水準の低下や格差拡大といった「経済問題への対応は非常に鈍かった」とし、「受け入れた移民の人権をいかに守るのかここに重点を置いてきた」と指摘する。また、「移民反対の動きを排外主義として切り捨ててきました」と述べ、経済問題よりも「リベラルな理念の立場からグローバル化を支持してきた」と言えると評価した。その結果、「大衆には外国人ばかりを優遇しているそんなイメージが広がった」という。
国民民主党と日本維新の会については、立憲民主党に対抗する「アンチリベラルの立場から移民に反発する人々に同調する姿勢も見せてきました」としながらも、「どちらも本質的にはグローバル政党」だと断じる。国民民主党は「大企業系労組の支持を受けていますし、玉木代表はグローバリストが集うダボス会議にも出席してきた」。維新は「大阪万博を始め大阪のグローバル化を推進してきた」と述べ、「日本の主要政党は全てグローバル化を支持してきた」と結論付けた。
唯一見極めが難しいのが、れいわ新選組だと鮫島氏は語る。山本太郎代表は「移民が日本の労働者の賃金水準を下げるとし反移民の姿勢を示してきました」が、大石晃子共同代表は「人権重視の色彩が強く」、参政党の神谷宗幣代表と移民問題を巡ってテレビ番組で対立する場面もあったという。この結果、「れいわは移民に賛成そんな誤解も広がっていた」と述べ、「グローバル化を支持するのか反対するのか、れいわの基本姿勢が曖昧だったことは否めません」と指摘する。その結果、「反グローバリズムの旗を鮮明に掲げる参政党に、人権勢力の主役の座を奪われることになりました」と分析した。
参政党は「日本で初めて反グローバリズムの旗を鮮明に躍進した政党」だと鮫島氏は強調する。神谷代表が「党員獲得による党勢拡大を最優先し、草の根運動を全国で展開した結果、移民に対する大衆の不安に気づいてそこに飛びついた」と、その戦略を解説する。しかし、「重視しているのは理念ではなく党員の獲得」であり、「日本人ファースト以上に党員ファーストと言えるかもしれません」と、究極の「草の根ポピュリズム政党」である可能性を示唆した。
それほど「日本社会の隅々にグローバリズムへの反発は浸透していた」にもかかわらず、「マスコミ重視の既存政党はその地殻変動に気づかなかった」のだという。参政党の支持層は「オーガニックにこだわる主婦たち」であり、これも「反グローバリズムの世界的潮流に重なった」と指摘する。反グローバリズムを前面に掲げる政党がなかったため、参政党は「自民党や国民民主党を支持してきた保守層を切り崩すだけではなく、これまで政治に無関心だった人々を一挙に引き寄せることになった」と、その影響力を語った。
参政党旋風は「一過性では終わらないだろう」と鮫島氏は予測する。ヨーロッパと同じように、もし自民党と立憲民主党の二大政党が参政党を「極右政党とみなし、これを封じ込めるために大連立に踏み切れれば、日本でもグローバリズム対反グローバリズムの対立が先鋭化し、参政党はますます勢いづく」と展望を語る。しかし、自民党が参政党を引き込むには「反グローバリズムに譲歩するしかありません」が、それでは「最大の応援団であるグローバル企業を敵に回すことになる」ため、自民党は「今やグローバル化の急先鋒」であると指摘した。そして、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党の野党3党も「参政党よりは自民党にはるかに近い」ため、自民党が参院選で惨敗した後、「数を埋め合わせるための新たな連立相手を立憲、維新、国民の野党3党の中から選ぶことになるだろう」と予測する。
参政党躍進の背景には「世界的潮流である反グローバリズムの波」があり、自民党も立憲民主党も既存政党は「そこに乗れない」のだという。
はたして、参政党が日本の政治に新たな地殻変動をもたらすことになるだろうか――。
政治ジャーナリスト 鮫島浩が分析!「日本人ファースト」を掲げる参政党旋風の正体とは?
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