JX通信社代表取締役・米重克洋が分析する「参院選2025」の行方──自公過半数維持は「フィフティフィフティ」

JX通信社代表取締役・米重克洋が分析する「参院選2025」の行方──自公過半数維持は「フィフティフィフティ」 最新ニュース
JX通信社代表取締役・米重克洋が分析する「参院選2025」の行方──自公過半数維持は「フィフティフィフティ」

JX通信社代表取締役の米重克洋氏は、2025年の参議院選挙が「事実上の政権選択選挙になる」と指摘する。衆議院で既に与党が過半数を割っている現状で、参議院でも過半数割れとなれば、自民・公明の枠組みでの政権維持は「非常に困難になってくる」という。この選挙では、「ネット地盤」が大きなキーワードとなり、新しい勢力の台頭が注目されている。

「都知事選」が示す国政への影響:物価高への不満が集中

先日行われた東京都知事選挙は、参議院選挙の前哨戦ともいわれた。都民ファーストの会が議席を伸ばした一方で、自民党は30から21、公明党は23から19と、大幅に議席を減らす結果となった。米重氏はこれを「自公政権が参院選に向けて非常に厳しい結果が下された」と受け止める。

この結果は、小池都政への信任と同時に、国政における「物価高が圧倒的に大きな関心事」であり、それに対する「政権与党に対する不満が表明をされて」国民民主党や参政党の躍進につながったと分析する。

国民民主党は山尾志桜里氏の擁立に関する混乱で支持率が一時急落したが、都知事選では9議席を獲得した。これは、国民民主党が「支持層とかのボリュームを見ながら、おそらく選挙区の中でもここは、ある程度議席が取れるんじゃないかというところに絞って」擁立した戦略が功を奏したとみられる。

一方で、石丸慎司氏率いる「再生の道」は、都知事選では議席獲得ゼロという結果に終わったものの、都内全域で約40万票を獲得しており、「侮れない数字」だと評価する。敗因としては、「基本的に全ての選挙に立てようとして」「積極的選ばれる理由というか政策だったりとか、あるいはその人柄、特にその人物っていう部分で知ってもらうことが難しかった」点が挙げられる。ただし、YouTubeでの再生回数から一定の注目度はあったため、参議院選挙の全国比例であれば「数%の得票を得ることによって議席を得ていく」可能性は十分あるとみる。しかし、「都知事選でゼロっていう、ある意味負けたということのアナウンスメント効果」が参議院選挙でマイナスに働く可能性も指摘する。

参政党の躍進と「ネット地盤」の強化

今回の参議院選挙で特に注目すべきは「参政党が報道各社の世論調査で劇的に支持率を伸ばしている」ことだという。参政党が伸びると「与党に不利なのか野党に不利なのかと。こういったことによってもかなり選挙結果が動いていく」ため、「キープレイヤーになっていく可能性」があると述べる。

参政党の戦略は、「地域に根を張った形で地道な活動」を行う地方議員を中心とした「リアルな地盤」と、YouTube、X、TikTokなどのSNSを活用した「ネット地盤」を組み合わせた「ハイブリッド型」だと米重氏は分析する。参政党の支持層の約6割がYouTubeで情報を収集し、Xの利用時間も長いというデータがある。

参政党躍進の背景には、「日本人ファーストというキャッチコピーによって有権者に受け入れられるような、そういう争点設定をしてる」ことがある。都知事選の調査では、「外国人バウンド対応」に関心を持つ有権者の間で参政党が自民党を上回る支持を得ており、この「イシューオーナーシップ」が他の政党(自民党、日本維新の会、国民民主党など)にも同様の政策を打ち出させることで、「参政党が得意とする争点が各党によって強化されて、争点としては盛り上がっていく」状況が生まれていると指摘する。

また、日本保守党についても、百田尚樹氏と有本香氏の「ネット地盤的な力っていうのは非常に強い」とし、「議席獲得の可能性は十分ある」と述べる。昨年の衆議院選挙期間中には、YouTubeでの検索ボリュームで国民民主党を一時的に上回るほどの影響力があったという。

一方で、立憲民主党が蓮舫氏を公認したことによる投票行動への影響は「限定的」だと見る。蓮舫氏は長年、党の支持層から人気が高いため、「政党の支持層をしっかり固めることで十分当選ラインに浮上する」と分析する。

れいわ新選組は、消費税廃止を訴え、物価高に苦しむ層から一定の支持を得ており、「勢力を今後伸ばして来る」だろう。しかし、直近の世論調査では参政党の台頭と同時に支持率が「若干ちょっと頭打ち、ないしは若干下がっている」傾向が見られる。これは、消費税減税だけでなく物価高への対策を訴える競合政党が増えたためであり、有権者の投票行動は必ずしも「右左のイデオロギー」で決まるわけではないことが示唆されているという。

物価高対策と世代間のギャップ

物価高対策は、今回の参議院選挙の「最大の関心」であり、有権者の投票行動に大きな影響を与えると米重氏は語る。世論調査では「約6割とか7割ぐらいの方が減税がいい」と回答しており、減税を望むのは主に「現役世代と50代よりも若い方々」である。一方で、給付を望むのは「60代以上」の年齢層が高い人々であるという。

自民党が公約に掲げる「一律2万円の全国民への支給」や「2030年度までに賃金を100万円増加」といった給付政策は、高齢者層には手厚いが、現役世代の支持は集まりにくい傾向にあると分析する。これまでの物価高対策が「選挙目当てのばら撒きではないかという批判を受けてしまう」ため、政権与党は「苦しい立場」にある。

ネット選挙の進化と課題:情報空間への提言

米重氏は、近年のネット選挙が「空中線から地上戦に変化した」と指摘する。2021年以降、インターネットの利用時間がテレビの視聴時間を上回っており、特に50代以下の世代ではネット利用がメインとなっている。この「ネットの利用時間が長い世代と投票率が高い世代ってのは重なってきてます」と述べ、ネットが選挙に与える影響力の増大を強調する。

従来の地縁的なつながりによる支持基盤形成に加え、候補者や政党自身がSNSやプラットフォームで「情報発信力を築いていく」ことや、インフルエンサーに応援してもらうことで「ネット上に地盤を形成していく」ことが重要になっている。これは「ネットドブ板」とも呼ばれる新たな選挙戦術である。

政治・選挙コンテンツの収益化停止といった規制については、「やっても意味がない」と否定的だ。収益目的ではないインフルエンサーには効果がなく、「なぜそのマスコミは優遇されてネットはダメなのか」という批判を招く危険性があるからだ。

米重氏は、選挙は「有権者と政治家のコミュニケーションの場」であるべきだとし、現状の公職選挙法は「べからず法」として多くの制限を設けていると批判する。ネット選挙においても、「自由な環境を整えた上で、各候補者に均等にその機会を与えていく」仕組みが重要だと提言する。具体的には、自治体のYouTubeチャンネルでの無料動画公開や、ネット広告費の公費負担などが挙げられる。

また、情報空間の課題として、誹謗中傷や偽情報の拡散に対しては、プラットフォーム側の積極的な対応(コンテンツモデレーション)が求められる。同時に、有権者自身もインターネットの情報空間の特徴である「フィルターバブル」を理解し、「自分のバイアスを認識した上で、選挙の情報とか集めていくってことは結構大事なんじゃないかな」と語る。特に50代以上の層では、アルゴリズムによる情報絞り込みを認識していない人が多いという調査結果も指摘する。

自公連立政権の過半数維持、その行方は?

今回の参議院選挙で自公連立政権が過半数を維持できるかどうかについて、米重氏は「フィフティフィフティだ」と考えている。

直近の世論調査における自民党の比例投票先支持率は、2007年の参議院選挙(第一次安倍政権が過半数割れした時期)や2009年の衆議院選挙(政権交代に至った時期)と「同じぐらいの水準にまで落ちている」という。これは「自民党のパフォーマンスが今悪い」ことを示している。

しかし、2007年当時と異なるのは、「民主党という非常に強力な野党」が存在せず、立憲民主党、国民民主党、日本維新の会、参政党など「分散した状態」である点だ。この分散が、自民党を「相対的には楽にしてる部分」もあると分析する。

これらの要因を総合すると、参議院選挙の結果は予測が難しく、自公連立政権の過半数維持は非常に厳しい戦いとなる見込みだ。

JX通信社代表取締役・米重克洋氏が分析する2025年参議院選挙の情勢は、自公連立政権にとって極めて厳しいものだと示している。物価高に対する国民の不満、そして「ネット地盤」を強化する新しい勢力の台頭が、選挙結果を大きく左右する要因となるだろう。はたして、自公連立政権は過半数を維持できるのだろうか――。そして、この「事実上の政権選択選挙」は、日本の政治にどのような影響をもたらすのだろうか。

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