株式会社BIOTOPE代表の佐宗邦威氏は、国際調査機関イプソスの国家ブランド指数で日本が2023年に世界1位を獲得し、インバウンド旅行者数も過去最高を記録する中、現在の世界的な日本文化ブームを「第三のジャポニズム」と定義した。この追い風を捉え、日本は「観光一本足打法でいいのだろうか」と警鐘を鳴らし、「観光大国」から「文化立国」へとシフトすべきだと提言。フランス・イタリアモデルのように、日本の文化の価値を活用したブランド産業を育成し、「一時的な商品から永続的で幅広い産業へと展開」させることが重要だと強調した。
「第三のジャポニズム」到来:世界が日本文化に熱視線
株式会社BIOTOPE代表の佐宗邦威氏は、世界中で高まる日本文化への評価を背景に、日本が「観光大国」からさらに一歩進んだ「文化立国」を目指すべきだと提言する。
近年、日本文化は世界中で注目を集めている。国際調査機関イプソスが毎年発表する国家ブランド指数では、日本が2023年に世界1位を獲得した。インバウンド旅行者数も過去最高の3,600万人を突破するなど、日本は「観光大国」として着実に地位を確立しつつある。
佐宗氏は、現在の世界的な日本文化ブームを「第三のジャポニズム」と定義している。
第一のジャポニズム(19世紀中盤)は、明治維新後の開国とともに、浮世絵に代表される日本の美術や工芸品がヨーロッパの美術に影響を与えた時期だ。
第二のジャポニズム(20世紀後半)は、トヨタやソニーなどの工業製品が世界を席巻し、ポップカルチャー、デザイン、技術といった分野で日本が再び注目された時期である。
そして、現在到来している第三のジャポニズム(2020年以降)は、アニメ、漫画、ゲーム、日本食を中心に、デジタル化された世界において日本文化が国境を越えて広がり、日本の職人の手仕事、生きがい、禅、金継ぎといった日本の思想が価値を見出されている時期だと佐宗氏は語る。
ニューヨークでの体験(坂本龍一のXRコンサート、ユニクロ、出汁スタンドなど)や、海外在住の日本人からの声、フランスにおける日本人シェフの評価などから、佐宗氏は「第三のジャポニズム」が世界の至る所で芽吹き始めていることを確信している。
「観光大国」から「文化立国」へ:目指すべきはフランス・イタリアモデル
現在の日本の観光大国としての成功は喜ばしいが、佐宗氏は「観光一本足打法でいいのだろうか」と警鐘を鳴らす。観光は「一回の体験で終わってしまう」傾向があるのに対し、文化は「コンテンツと接点を持ち、それを習慣的に生活に取り入れる」ものであり、ビジネスで言えば「ファンを作る」行為に近いと指摘する。
佐宗氏はここで、ヨーロッパの国々を例に挙げ、「観光立国」のあり方を比較検討した。
スペイン・ポルトガルモデルは、観光産業のみが主要産業となっており、比較的消費され、一時的で終わってしまうものが多い。
一方、フランス・イタリアモデルは、観光も強いが、それに加えて職人の力を活用したラグジュアリーブランドなど、文化的な産業が成立している。観光で来た人が、ブランドという形でクロスセルされ、「一時的な商品から永続的で幅広い産業へと展開」しているのが特徴だ。
佐宗氏は、日本もスペイン・ポルトガルモデルではなく、フランス・イタリアモデルを目指すべきだと提言する。すなわち、インバウンドの強さに加え、日本の文化の価値を活用してブランド産業といった付加価値を付けることで、「観光」を一時的な消費で終わらせず、より広範な産業へと展開させるべきだということだ。
日本文化の経済的価値と深層にある魅力
日本の国際収支を見ると、プラスになっている要素は主に「知的財産権(IP)」と「旅行(インバウンド)」の2つだと佐宗氏は指摘する。特にIPは33.2%、旅行は3.4%と、これら2つが日本の国際収支を支える構造になっているという。様々な分野で国際競争力を失いつつある現状において、日本文化こそが経済を支える柱になり得るという認識を持つことが重要だ。
佐宗氏は、経済産業省と共同で行った日本のブランドイメージに関するリサーチレポートに基づき、海外から注目を集める日本文化の多様性を深層的な理解度に応じて分類した。
多くの人が言及する「表面的な理解」には、富士山、芸者、侍などの伝統文化や、漫画、アニメ、ゲームといったポップカルチャーが含まれる。
「中程度の理解」には、世界的なブームとなっている日本食やお酒、日本の包丁や文房具といった道具・クラフト性、そして「Japan-Di」といったキーワードで評価される建築・インテリアが挙げられる。
そして、「深い理解」を示すコアな層や訪日経験者からは、漆器などの器を用いた食文化や茶道といった工芸品、日本独自のファッションスタイル、日本の豊かな自然とそこでのアウトドア体験、そして日本人と自然との関係性、生きがい、禅といった思想(スピリチュアリティ)への興味が示されているという。
「Duality of Old & New」:日本文化のユニークな魅力
さらに佐宗氏は、世界が抱く日本文化のイメージを7つのカテゴリーに分類し、そこからビジネスのヒントとなる価値を探っている。その中でも特に重要視されているのが「Duality of Old & New(歴史とモダンの両立)」だ。
佐宗氏は、この概念が特にヨーロッパの人々から「非常に稀な国である」と高く評価されていることを強調する。日本人は自らを「ハイテク」な国と認識しがちだが、海外からは「新しいものもあって、古いものも同時にあること」が面白みとして捉えられているのだ。
この「温故知新」とも言える二面性こそが、日本文化の持つユニークな魅力であり、これからの「文化立国」戦略の核となる可能性を秘めていると佐宗氏は語る。
日本は今、「第三のジャポニズム」という追い風を受け、海外からの高い評価と過去最高のインバウンドを享受している。しかし、この機会を単なる「観光」で終わらせることなく、日本の「文化」を経済的価値へと昇華させ、「文化立国」へとシフトしていくことが、持続的な成長と国際競争力強化のために不可欠だ。そのためには、日本の持つユニークな文化のポテンシャルを最大限に引き出し、それをブランドとして世界に発信できる人材を育成し、文化と経済の間のギャップを埋める戦略的な取り組みが求められるだろう。「Duality of Old & New」に代表される日本文化の深層にある価値を見極め、それを新たなビジネスへと繋げていくことで、日本は未来への希望の物語を紡ぎ出すことができるだろうか――。
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