政治ジャーナリストの鮫島浩氏が、先日行われた参議院選挙の党首討論会を徹底的に検証し、各党首を独自の視点で採点した。その模様から、日本の政治が抱える問題点と、来るべき参院選の争点が浮き彫りになった。
「落第点」の二大政党党首
鮫島氏は、自民党の石破総理と立憲民主党の野田代表に対し、手厳しい評価を下した。石破総理が冒頭で掲げたのは「この国の未来に責任を持つ」という言葉だが、鮫島氏はこれを「減税はしません、そう言いたいだけ」だと断じた。石破総理は減税を全面否定し、その一方で物価高対策として国民に一律2万円、住民税非課税世帯と子供には4万円をばらまくという。これに対し鮫島氏は、「財政規律にそこまでこだわるのなら、なぜ減税はダメで現金給付は良いのか」と疑問を呈し、「ネチネチのどけちな現金給付。これじゃ選挙対策にもならない」と批判した。
対する立憲民主党の野田代表は、「物価高からあなたを守り抜く」を掲げ、同じく1人2万円の現金給付に加え、食料品の消費税を1年限定でゼロにするという政策を打ち出した。しかし鮫島氏は、「はっきり言ってこちらもショボい」と一蹴し、「財務省が許す範囲でしか減税も現金給付もしないという意味において、石破と何も変わりはない」と指摘した。野田代表が討論で強調したのは「赤字国債は絶対に発行しません」ということのみ。鮫島氏は「石破、野田のドケチ対決。どちらも財務省が作った狭い土俵の上でわずかないを言い争ってるに過ぎない」と述べ、両党首を「落第」と評価した。
現役世代に照準を合わせた玉木氏と吉村氏
一方で、国民民主党の玉木代表と日本維新の会の吉村代表は、より高い評価を得た。玉木代表が掲げたのは「現役世代から豊かになろう」であり、石破総理の現金給付が高齢世帯に偏っていることを指摘し、「現役世代に広がる公平を煽った」と鮫島氏は評価した。
吉村代表もまた「現役世代に照準を絞った」と鮫島氏に評された。彼が掲げたのは「社会保険料を下げる改革」であり、「現役世代に募る社会保険料負担への不満、ここを刺激した」と鮫島氏は分析した。医療や介護を重視する高齢世代からの反発を覚悟の上で、現役世代の支持を取り込もうとする両者の姿勢が伺える。
ただし、両者には明確な違いがある。玉木氏が「積極財政の立場」で赤字国債の発行も否定しないのに対し、吉村氏はあくまでも「歳出削減で財源を生み出す」「緊縮の立場」である。鮫島氏は「予算を削って財源を生み出す、ここで勝負している限り財務省の言いなりで土地対決を繰り広げている自民と立憲との差が示せるのか」と疑問を呈しつつも、両者の主張は石破総理や野田代表に比べ「はるかに明確な主張」であるとし、ともに「ギリギリの合格点」を与えた。
新党の台頭と「反グローバリズム」
続く公明党の斉藤代表と共産党の田村委員長については、鮫島氏は厳しい評価を下した。斉藤代表の掲げた「物価高を乗り越える経済と社会保障の構築」は、「要するに減税も給付もしない」と鮫島氏は捉えた。討論会では野田代表を攻撃したものの、「理念がぶれているようにしか見えない」と批判した。斉藤氏が一時「赤字国債発行を容認する考えを打ち上げた」にもかかわらず、国民民主党の失速とともにそれを引っ込めたことに対し、「自公連立の枠の中に閉じこもってしまった」と述べ、「衰退する統制を回復できるとは思わない」と「落第」の評価を下した。
共産党の田村委員長が掲げた「少数野党で消費税減税」というキャッチコピーも、「分かりにくい」と鮫島氏は指摘した。共産党が立憲民主党との連携を追い求める一方で、政権交代を明確に打ち出せないジレンマを指摘し、「田村さんたった一人の女性党首として参加しました。良い発言もありましたけれども、統制回復の気兆しは見えません」との評価をくだした。
最後に、新興勢力としてれいわ新選組の山本代表と参政党の神谷代表が登場した。山本代表は「物価高対策にケチ化するな」を掲げ、「緊縮財政政策」が日本の低迷の最大の要因だと明確に主張した。鮫島氏は「この主張はとても分かりやすい」とし、「れいわが台頭し、消費税減税を政界の最大のテーマに押し上げた」と評価した。
参政党の神谷代表は「日本人ファースト」を掲げ、経済政策ではれいわと同じとしつつも、討論会では「右寄りの政策」を強調したと鮫島氏は見ている。「賃金で働く外国人労働者の急増で日本人の賃金が下がる」ことへの反発や、「円安が進み日本の土地や株が外国資本に買い占められていく」ことへの不安に触れ、「日本人ファーストを掲げる参政党の躍進は、まさに反グローバリズムの高まりを映し出している」と分析した。神谷代表が「二大政党とは全く違うアプローチで政権交代を目指す」と表明した点も注目に値する。山本代表と神谷代表に対し、鮫島氏は「立場の違いはあれど主張は明確で分かりやすい」とし、ともに「良」と評価した。
鮫島氏による党首討論の採点では、自民党と立憲民主党の二大政党が「財務省の言いなり」とも取れる緊縮財政路線に固執し、明確なビジョンを欠いている現状が浮き彫りとなった。一方で、国民民主党と日本維新の会は現役世代への訴求を強め、れいわ新選組と参政党は緊縮財政からの脱却や反グローバリズムといった明確な主張を掲げた。しかし、この重要な論点である「緊縮か積極か」がマスコミによって十分報道されていないと鮫島氏は警鐘を鳴らした。来る参院選で、有権者はどの選択肢を選ぶだろうか。
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