政治学者 烏谷昌幸が分析する「陰謀論と参政党」:議会制民主主義が失われかねない理由

国内政治

政治学者である慶應義塾大学の烏谷昌幸教授が、2022年参議院選挙における参政党の躍進を分析する。参政党の支持層には「非常に濃いめの陰謀論」を信じる人々が存在し、これが「日本人のための政治」というスローガンと結びつき、議席獲得につながったと指摘。もし陰謀論がそのまま政策として議論されるようになれば、「議会制民主主義そのものの存在意義が失われかねない」と強い懸念を示す。

参政党の躍進に「陰謀論」の影

烏谷教授は、参政党の躍進は「誰もが予想しなかったこと」だと述べる。参政党は選挙で陰謀論を前面に出さず、「日本人ファースト」という抽象的なスローガンを掲げた。しかし、その政策の端々からは「陰謀論が垣間見える」「透けて見える」と指摘。これにより、もともと陰謀論に関心のある人々は、参政党の動きに早期から気づいていたという。

参政党のコアな支持層には、「非常に濃いめの陰謀論」を信じる人々が存在し、彼らは「このままだと日本は本当にやばい」という強い危機意識を持っている。具体的な事例として、支持者が運営するオープンチャットで共有されていた「2033年には中国は5000万人の中国人を日本に入れてきます。そして日本は中国の一部になります」といったメッセージを挙げた。

烏谷教授は、参政党の躍進の背景には、「反グローバリズム」の意識が予想以上に日本社会で強かったことが、「日本人ファースト」のスローガンと共鳴した結果ではないかと推測する。

議会制民主主義への深刻な懸念

参政党は、党員や支持者の声を吸い上げて政策に反映することをアピールポイントとしている。しかし、もしこのような「陰謀論がそのまま政策として吸い上げられ、地方議会などで議員が陰謀論に基づく質問をするようになれば」、議会の議論の質が低下し、ひいては「議会制民主主義そのものの意味や存在意義が失われかねない」と強い懸念を示した。

陰謀論の定義は、世の中で起きる問題の原因を「特定の根拠もなく『誰かの陰謀のせい』にして考えること」。かつては一時的な噂として忘れ去られていたが、近年、陰謀論は「ビジネスや政治の領域で『人を集めるための道具』『アテンションを集めるための道具』」として活用され始めている。このことが社会全体が陰謀論的な思考に侵食されていく大きな背景となっていると警告する。

人々が陰謀論に惹かれる理由

なぜ人々は陰謀論に惹かれるのか。その大きな理由の一つに「剥奪感(はくだつかん)」があると烏谷教授は解説する。これは、自分にとって大切なものが不当に奪われているという漠然とした感覚だ。

陰謀論は、この剥奪感に対し「悪いのはあなたじゃない。実は裏でこの人たちがこんなことをしているから、真面目に生きている人たちが割を食うのだ」という「答え」を提供する。これにより、剥奪感によってできた心の穴を埋め、複雑で理解しにくい世界を「あいつらが悪い」「ここに悪の急所がある」といった「一発逆転の思想」で説明してくれるのだ。

現実社会が偶然や「つまらない理由」で満ちている中で、人々は自分たちが不当な環境に置かれているのは、「何らかの陰謀があったのだ」という物語を重ねることで心の穴を埋め合わせようとする。陰謀論は、現実で得られない「自信」「活力」「前向きな希望」といったものを信じる人に提供する「元気にする要素」があるからこそ、人々は惹きつけられるのだ。

陰謀論が政治的な武器や市場として開発され、その社会的な影響力を拡大していることは、日本の議会制民主主義にとって大きな脅威だ。はたして、私たちはこの「非常に良くない傾向」にどう立ち向かい、正常な議論を取り戻すことができるだろうか――。

政治学者 烏谷昌幸が分析する「陰謀論と参政党」:議会制民主主義が失われかねない理由

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